難民問題、対IS……パリ同時テロが1週間でもたらした変化
11月13日にフランスのパリで発生した同時多発テロ事件。犠牲者の数は130人に達し、現在もフランスやベルギーでは関係者の拘束を目的とした家宅捜索が連日行われている。テロに関する具体的な情報があったという理由で、ベルギーのブリュッセルでは地下鉄の駅や公共施設、商店が閉鎖される厳戒態勢となり、テロ事件に直接かかわったとされる容疑者の1人は現在も逃走中だ。この1週間でテロに関するさまざまなニュースがヨーロッパから発信されたが、難民受け入れやロシアと欧米の関係で大きな変化がみられた。 【写真】<パリ同時テロ>欧州全域が脅威に テロ対策としての異文化との共生
難民問題を主導、頭の痛い独メルケル首相
パリ同時多発テロ事件が、ヨーロッパ各国で対応をめぐって温度差が生じている難民受け入れ問題にも、少なからぬ影響を与えるのは必至だ。 13日夜にサッカーの試合が行われていたスタッド・ドゥ・フランス周辺で自爆テロを決行した3人の実行犯のうち、2人が難民を装ってギリシャに入国し、そこからフランスに向けて移動を繰り返していた。実行犯の一人がシリアの旅券を持って、難民としてギリシャに入国したのが10月3日。その際に入国管理施設で登録された指紋のデータがギリシャ政府からフランスの警察当局に事件後に送られ、自爆した人物と、遺体近くにあったシリア旅券の情報、指紋が全て一致していた。この人物は難民として渡欧してから一か月半足らずで、ヨーロッパ中を震撼させたテロを引き起こしたことになる。 難民の受け入れをめぐって、これまでヨーロッパ各国で議論の中心にあったのは、テロの可能性よりも、財政的に長期間の受け入れが可能かという問題や、難民受け入れによって自国民に対する福祉などに影響が出るのではないかといった懸念であった。14万人以上の難民が現在も暮らすスウェーデンで、ジャーナリストのマリン・ダンフォースさんは9月末に難民受け入れと財政問題について語っている。 「国内では今後の難民の受け入れをめぐって世論が二分しています。さらなる難民受け入れを求める声がある一方で、実際に難民を受け入れた場合、難民が暮らしていくための住宅や雇用、福祉などをこれまで通り提供するのは困難だという意見もあります」 しかし、11月13日にパリで発生した連続テロ事件によって、難民受け入れに関するヨーロッパの世論は大きな転換期を迎えた。テロリストが難民を装ってヨーロッパに簡単に入国・移動できる可能性が指摘され、ドイツやフランスの右派政党は難民受け入れ阻止をこれまで以上に声高に主張。テロ事件発生から間もなくして、フランス、オランダ、スペインは出入国管理の強化に着手した。 10月末の総選挙で反EU色を前面に出す野党が大勝したポーランドでは、新政権が難民受け入れ数の見直しを視野に入れていることを明らかにしている。「一つのヨーロッパ」を象徴するシェンゲン協定(加盟国間の移動の自由を保障するルール)やヨーロッパにおける国別の難民受け入れ数の割り当てで、主導役として動いてきたドイツのメルケル首相にとっては頭の痛い一週間となった。 メルケル首相が直面するのは他国からのプレッシャーだけではない。ドレスデンに本部を置き、ドイツ各地でイスラム教徒の移民受け入れに反対するデモを繰り返す反イスラム団体「ペギーダ」は、パリの事件後にSNSを中心にメルケル政権の移民・難民政策を激しく非難。わずか一年前、ペギーダ主催の反イスラム集会の参加者はわずか数百人だったが、最近では1万人を超えるものも珍しくなくなった。 また、移民排斥を公式には掲げてはいないものの、反EU派の政党「ドイツのための選択肢」の支持率上昇も話題になっている。難民受け入れをめぐる議論が続くなかで支持率を伸ばしていたこの政党は、テロ事件の数日後にドイツ国内で行われた世論調査で支持率が初めて二ケタ台に到達しており、来年3月に行われる州議会選挙で躍進するのは確実との声もある。