芸能人とインフルエンサーの境目はさらに縮まる? BitStar渡邉拓代表に聞く“動画市場の未来”
コロナ禍が明け、YouTubeとTikTokでニュースターやヒットコンテンツが続々と誕生した2023年。年々競争が激しくなるこの動画コンテンツ市場で、今年はどのような変化があったのか。 【写真】渡邉拓の撮り下ろしカット 今回はクリエイター支援やD2C事業を行うエンターテック企業・株式会社BitStar代表取締役 社長執行役員CEO・渡邉拓氏にインタビューを実施。この1年のYouTubeとTikTokシーンを振り返りながら、クリエイターに必要なスキルや2024年以降の市場について話を聞いた。 ・アフターコロナが市場の“転換期”に ーー今年、YouTubeでは中学生グループのちょんまげ小僧が話題になりました。彼らのヒットに対してどういった感想をお持ちでしょうか? 渡邉:彼らは個々のキャラクターがハッキリしていて、編集もすごく上手いと思います。自己紹介や要所から面白い要素を切り取るセンスがすごくある。後は、あの世代の人気者ってあんまりいなかったんですよね。子どものクリエイターと大学生以降のクリエイター、大人世代の合間を埋める存在でもありクラスの人気者みたいな存在にも近い。だから、身近な存在として受け入れられたのではないかと思っています。 ーーTikTokだと今年、「日本一接客態度の悪い店」がヒットし、YouTubeでも多くのクリエイターが取り上げていました。TikTok発のコンテンツが人気になったことについて、どのように思われていますか? 渡邉:以前からTikTokから音楽が流行っているので、そんなに違和感はありませんでした。今回の接客態度が悪い店に関しては、コンセプトや切り取り方がすごく秀逸だったのでヒットしたと考えていますが、これからは新規コンテンツの発掘は長尺動画よりもショート動画が多くなってくるので、そこにフィットしたかなという認識です。 ーー今年、YouTubeとTikTokシーンで新しく生まれた需要はありますか? 渡邉:海外でヒットするコンテンツがショート動画、長尺動画ともにすごく増えたなと思っています。日本から海外、海外から日本の両方にいえることですが、日本ではバヤシさんやVAMBIさんの「スパイダーメーン」、弊社でいうと「もこちゃんチャンネル」というトラック運転手など、日本から海外に向けたノンバーバルコンテンツが伸びています。海外から日本でヒットした例で言うと、「MrBeast」のチャンネルに日本語のアテレコがつけられ、日本でも視聴者がすごく増えてきています。 ショート動画では物を購入する際の比較検討やハウツー、情報取得の目的にかなうような動画がどんどん出てきた年だったので、視聴者もそこに対する目が肥えてきている感じがしています。 ーーコンテンツの視聴者側にも変化があったということですね。視聴者側の変化で今年気になった点はありますか? 渡邉:視聴者側の大きな変化は、アフターコロナだと思います。アフターコロナに向けて食や旅行・旅系コンテンツがすごく増えたわけですが、これは検索需要なども含め、明確にトレンドとして伸びてきています。 海外コンテンツの視聴が増えていている点については、AIやアテレコなどさまざまな要素を理由にコンテンツがグローバルに流通しやすくなったことで、視聴者が楽しめるようになったとみています。 ーーコンテンツのグローバル展開にあたって、今年話題になったChatGPTのようなAIを使った翻訳が今後も活性化していくのでしょうか? 渡邉:さらに加速していくと思っています。AIでサムネイルを生成させたり、長尺動画をショート動画にリミックスしたりすることもできるようになりますし、動画のタイトルや中身もAIで言語翻訳できるようになってきています。これからはAIを活用できるかできないかということも、クリエイターとしてグローバルに活躍できるひとつのきっかけになりそうです。 ーーコンテンツの需要や視聴者が変化していくなかで、クリエイターたちが生き抜くために必要なことはなんでしょうか? 渡邉:今後はいろんなプラットフォームに合わせてコンテンツの使い分けが必要になっていきますが、なによりも強いファンベースを作る、強いブランディングを作ることが必要だと思います。 たとえば新規獲得の要素が強いショート動画で有名になったとしても、コンテンツは知っているけど、クリエイターのことは知らないというケースが多いのが現状です。それだと強いファンベースにならないので、YouTubeでファンベースを作り、しっかりとそこでマネタイズする。さらにはそこで作ったファンベースをもとにプラットフォーム外のビジネスやマネタイズにもつなげていくというような、プラットフォームやマネタイズの動線をしっかり設計することが極めて重要だと考えます。 これからは「1億総クリエイター時代」に向けてクリエイターがどんどん増えていくので、どういうチャンネル、アカウントなのかがパッと分からないと人気も落ちていく。ニッチなチャンネルでも強みとポイントをいかに作るかという、強いブランディングがより大切になってくるかなと思います。 ・2023年にBitStarが仕掛けた“3つの戦略” ーーそういった状況の変化があるなかで、BitStarが今年仕掛けたコンテンツや戦略はありますか? 渡邉:3つあります。そのひとつが海外視聴者の獲得で、トラックドライバーのもこちゃんのケースでは、海外向けの字幕やタイトルを付けるのではなく、ノンバーバルでグローバルで見てもらえるようなコンテンツ作りを心がけています。TikTokでその戦略が当たり、いまではグローバル視聴者の方が多い状況になっています。 2つ目は質にこだわったコンテンツ作りです。毎日投稿ではなく、数を絞り、コンテンツの質を高めるということを意識的に行っています。弊社だと「ニューポテトパーティー」が短編映画のようなリッチなコンテンツを制作しており、少ない投稿数でもクオリティが高い動画を投稿することで、視聴者の支持を得られるようなチャンネルを目指した結果、再生数が2倍になりました。 最後は、感情に訴えるコンテンツ作りです。「ボンソワールTV」を例に挙げると、もともとフランスの情報を日本に発信するチャンネルだったところ、今年はフランスの高校生を日本に招待するプロジェクトを行い、感情を動かすようなドキュメンタリー系コンテンツを作りました。情報提供というよりは、エモーショナルに訴えかけるようなコンテンツ作りをしたことで、多くの視聴者の方に観てもらえました。 ーー市場が変化するなかで、サポートの仕方はいまと昔とで変わりましたか? 渡邉:BitStarにはプラットフォーム、エージェンシー、プロダクション、アカデミーといった様々な関わり方がありますが、それぞれのサービスにおいて根本的なところはそこまで変わっていません。 プロダクションでいうと、クリエイターのやりたいことを叶えるというよりは、未来を作っ ていくというマネジメントをしています。プロデュース志向に近いところがありますが、僕たちがいることによって、彼らができないことを叶えていくというのが大事だと思っているので、未来から逆算し、段階的になにをすべきかを設計していくという感じです。 D2Cブランドを出したいという話があれば、まずグッズを出してどれくらい売れるか確かめ、それが売れたら次はブランディングを強くするためにブランドとコラボするなどしています。D2Cまでやるとなるとストーリー性が重要になってくるので、ストーリー性を作るために書籍化などもします。最終的にDtoCをやっていくという設計が大事なので、そういうプロデュースができるようなマネジメントを大事にしている。クリエイターの「やりたい」ではなく、未来を作っていくという思想でプロダクションを運営しています。 ・キャラクター以外も 渡邉氏が可能性を感じるクリエイターの“3つの特徴” ーーやりたいからやらせるというわけではないんですね。いろんな方が在籍されていらっしゃると思いますが、可能性を感じるクリエイターというのはどういった方でしょうか? 渡邉:大きく3つあります。1つ目は、ひとつのコンテンツに対してこだわりをもって、そこに執着して頑張れる人。動画を公開した瞬間に初動を気にするといったような、そういう執着心のある人は活躍しやすいです。いまの世の中は質が重要なので、そこにフォーカスできるのかというのが大事ですが、いくらコンテンツの質にこだわってもNetflixのようなリッチコンテンツには敵わない。質に加え、視聴者へのコメント返しができるなど、インタラクティブ性も重要かなと思います。 2つ目は、それを飛び越えるくらいの強いキャラクターを持っているかどうか。見た瞬間に「この人、面白いな」と思える強烈なキャラクターも可能性を感じます。3つ目は専門性です。クリエイターが多様化するなかで、視聴者も専門性を求めるようになっています。TikTokでも情報を軸にしたコンテンツが投稿された際はより精査をしていくような時代になってくるので、どれだけ専門性があるかということも、人気になるうえで大事なポイントになっていきます。 ーーいま、面白いなと思うクリエイターはいらっしゃいますか? 渡邉:最近TikTokで面白いなと思ったのは、街頭インタビュー系のクリエイターです。今年話題になった「ストリートスナップ」はYouTubeと雑誌の中間に位置するコンテンツ、かつショートだからできたコンテンツだと思っています。雑誌の読者やウェブメディア、キュレーションメディアのユーザーも取ってきていて、その人自体に興味が出るし、斬新なフォーマットの発明だと感じています。 ・「1億総クリエイター時代」に訪れる変化 ーーヒットの理由がわかった気がします。今年もYouTube、TikTokでいろんな変化がありましたが、2024年以降はどのような変化を辿っていくと思われますか? 渡邉:現在は100人に1人がYouTubeに投稿したことがある、4人に1人がショート動画を投稿したことがあるというような時代になっていきています。2024年に限らずもっと先の未来でいうと、この10年は「1億総クリエイター時代」ということで編集技術も上がっていきますし、グラスをかければ動画が配信されているような、意識せずともクリエイターになっていく時代になっていくのではないかと考えています。 つまり、年々クリエイターが増えていくため、一人一人はロングテール化するし、自然とクリエイターや視聴者は多様化すると考えています。そのためニッチでも自分らしさを表現し、規模は小さくても支持されるような細分化されたクリエイターはさらに増えていくと考えています。 ーーYouTubeでもどんどんショート動画がヒットコンテンツになっていくのでしょうか。 渡邉:今後はショート動画からヒットコンテンツが生まれるのが王道のステップになっていきます。ノンバーバルのショート動画も増えていくと思いますし、長尺動画は1再生あたりの再生時間が長くなっているので、既存ファン向けのコンテンツという意味合いが強く、より二極化が進むとみています。 さらに2024年以降は、クリエイターが起業するというのもトレンドになると予想しています。先ほどの話につながりますが、クリエイターが増え、一人当たりのインプレッションが下がると、それだけでは食べていけないケースも出てくる。プラットフォーム以外でなにかやりたい、LTV(※)を高めたいという観点でいうと、目線が事業に向いていきます。少し前だとアパレルやコスメが多かったですが、海外だとすでにMrBeastが「MrBeast Burger」という飲食事業を手がけています。今後はアパレル、美容以外にも、食やスクール事業などいろんなカテゴリで、クリエイターがプロデューサーや起業家という役割を担っていくっていう流れが出てきそうです。 (※)LTV:「顧客生涯価値(Life Time Value)」の略称。ある顧客が自社の利用を開始してから終了するまでの期間に、その顧客からどれだけの利益を得ることができるのかを表す指標。 ーーたしかに飲食事業にチャレンジされる方も少しずつ増えてきていますね。 渡邉:昔は好きでYouTubeをやっていて、そこで稼げたらいいなみたいな形だったのが、市場や環境が変化していくなかで、クリエイターたちの将来に対する不安感が、起業に拍車をかけているような気がしています。彼らも自ら事業をやっていく、私たちもそこをサポートできるような形になっていきたいなと思っています。 もうひとつは、芸能人とインフルエンサーの境目がさらに縮まると予想しています。これまで芸能人の方がYouTubeに参入するケースはよくありましたが、ソーシャルで活躍している人が芸能界に出ていく機会が加速するとみています。少し前だと芸能界とソーシャルの分断は激しかったですが、いよいよこの境界線はなくなっていくでしょう。
せきぐちゆみ