危うい「第二のOSO」 凶暴ヒグマ今なお脅威 北海道厚岸町
飼料コーンに舌も肥え 広がる行動範囲
人の背丈よりも高いトウモロコシが踏み倒され、ミステリーサークルのような痕跡が残っていた。 【画像】ヒグマの食害を受けた飼料用トウモロコシ畑 「今年もか」。北海道厚岸町の酪農家で、飼料用トウモロコシ34ヘクタールを栽培する佐々木操さん(41)は9月、畑の異様な光景に表情を曇らせた。毎年のようにヒグマによる食害を受ける。作付面積約34ヘクタールのうち、今年の被害面積は推定50アール。「過去最大規模」という。 町内は、2019年ごろから乳牛を襲い続けた通称「OSO(オソ)18」による被害も続出していた。OSO18は今年7月に捕獲されたものの、トウモロコシの味を覚えた熊が今後、さらに別の食べ物も探すことを続ければ「第二のOSOが出かねない」と佐々木さんは危惧する。 電気柵も設置済みだが土を掘り返して侵入されることもある。減収だけでなく牧場で飼う乳牛350頭、さらに自身や家族、従業員が熊に襲われる事態を懸念。「遭遇するのだけは避けたい」として、畑になるべく近づかないようにしている。
「雌の育成牛が1頭、腹が引き裂かれて死んでいます」。2021年7月の朝。町営牧場で牧場長を務める櫻井唯博さん(58)に、巡回から戻った職員がそう告げた。 当時、隣の標茶町でOSO18の被害が目立っており「これもOSOの仕業だ」と確信した櫻井さんは、襲撃場所周辺にいた144頭をその日のうちに別の場所に移動。途中でさらに2頭、同じような死体が見つかった。1カ月後、別の放牧地の1頭が犠牲になった。両町などでつくるOSO18捕獲対応推進本部のまとめによると、計4頭はOSO18の被害だったと判明している。 事態を重く見た櫻井さんは、被害のあった2地区計900頭の放牧を断念。冬場に使う牛舎に大半を移した。追加の飼料代などで3500万円程度の経費が新たに生じた。 2地区には今夏まで3年間かけ、総延長28キロの電気柵を設置した。ただ、カバーできた場所は6割程度。OSO18は捕獲されたが、櫻井さんは「牛が襲われる可能性がなくなったわけではない。でも、これ以上電気柵を広げるのは予算的に厳しい」と打ち明ける。
OSO18を含め乳牛や飼料用トウモロコシへの熊被害が相次ぐ中、町は「これまで主な食料だったドングリ以外の味を覚え、行動範囲を広げて食べ物を探す熊が出てきた」(環境林務課)とみる。 特に飼料用トウモロコシは飼料高騰を背景に自給飼料を確保するため、町内でも酪農家らの作付けが増加。今年は397ヘクタールに上り、直近5年間で43%増えた。町は「熊が飼料用トウモロコシを見つける可能性が高くなっている」(同課)と指摘。作物や家畜の被害回避のため狩猟者の育成に力を入れる方針だ。(松村直明)
日本農業新聞