“K-POPノウハウ”の輸出は成功するのか? JYP、HYBEら欧米圏におけるローカライズ戦略の勝機と課題
SM、JYP、HYBE……大手事務所は“第三段階”へ
そして、2020年頃から大手事務所は“第三段階”の「現地企業と合弁会社を立ち上げ、韓国のCT(文化技術)を伝授する」へと進み始めている。すでに中国内でTencent Music Entertainmentと共同で2018年にBOY STORYという現地化ボーイズグループを生み出していたJYP Entertainmentは、日本でソニー・ミュージックと行ったサバイバルプログラムを通して誕生したガールズグループのNiziUでの成功を収め、2024年に同様の手法でボーイズグループのNEXZをデビューさせたばかりだ。同様に北米でもリパブリック・レコードと共同で開催したサバイバルプログラム「A2K」を通して、既に2023年にVCHAというガールズグループをローンチしている。韓国、日本、アメリカの3カ国体制のHYBEも、日本ではHYBE LABELS JAPAN所属のグローバルグループ &TEAMを、アメリカではガールズグループのKATSEYEをデビューさせた。YG ENTERTAINMENTは完全な現地化グループはまだいないが、2020年にデビューしたTREASUREは韓国の事務所と日本支社の練習生を含むメンバー構成であることから、半現地化グループとも言えるだろう。またケーブルチャンネルのMnetを通し、『PRODUCE 101』というアイドルデビューサバイバル番組をプラットフォームとしてアジア各国に輸出してきたCJ ENMは、日本では吉本興業との合弁で設立したLAPONE Entertainmentを通じてJO1、INI、ME:Iと言った『プデュ』経由のデビューグループを活動させている。 CT理論の産みの親であるイ・スマンはSM ENTERTAINMENTを去ったが、彼が“第三段階”を達成するべく名前にCTを織り込んで作られたNCTは、当初の計画のような各国現地化グループを作ることは叶わなかったものの、NCT最後のグループとしてほぼ日本現地化グループと言えるNCT WISHを今年デビューさせた。この流れの延長上にあるのが、冒頭に挙げた『Made in Korea: The K-Pop Experience』ということだろう。 K-POPの現地化の流れは始まったばかりだが、すでにアイドルカルチャーがある程度出来上がり成熟している日本やアジア圏以外の場合、アイドルカルチャーがまだ未成熟だったり、血脈が一旦途絶えていたりという状況下で「K-POPファンダム」を超えたカルチャーとして受け入れられるには、まだまだ課題がありそうだ。時代や文化によってファンが求めるものは異なる部分もあり、そもそもガールズグループとボーイズグループのファンダムの規模や動きも異なっている。ファンダム拡大をメインの据えるのか、インフルエンサー的な認知度をメインに置くのかによっても活動スタンスは異なるだろう。 その点で、『Made in Korea: The K-Pop Experience』の動きが興味深いのが、“アメリカ”ではなく“イギリス”からボーイズグループを生み出すという部分だろう。欧米圏でのボーイズグループ/ボーイバンドの歴史を振り返る時、実際はアメリカ以上にイギリスの存在感は大きいからだ。アメリカで史上最も人気があったと言われるBackstreet Boysのドキュメンタリー映画『BACKSTREET BOYS:SHOW 'EM WHAT YOU'RE MADE OF』でも明らかにされているが、欧米圏の中ではアメリカよりもヨーロッパ、特にイギリスの方がボーイズグループのファンダムカルチャーが一般的に受け入れられており、Backstreet Boysもデビュー当初は先にイギリスをメインとしたヨーロッパで活動し、ある程度人気が出てからアメリカで活動して人気を得ることに成功したという。欧米圏の人気ボーイズグループ/ボーイバンドの歴史を見ても、WestlifeやOne Directionなど英国圏のグループは少なくない。「欧米進出」というと市場規模からアメリカを真っ先に思い浮かべるかもしれないが、「韓国で最も歴史の長いSM ENTERTAINMENTがイギリスでボーイズグループを作る」というのは、欧米圏のボーイズグループ/ボーイバンドの歴史や文脈から見ても、実は「正統なチョイス」と言えるのではないだろうか。他にも、需要は大きいながらまだほとんどのK-POPが進出していないラテン圏で現地アーティストと一緒に活動してファンダムを拡大したSUPER JUNIORの例もあり、K-POPのIP輸出先はまだ開拓の余地がありそうだ。
DJ泡沫