【連載 泣き笑いどすこい劇場】第26回「悔しさ」その5
どうだ、と言わんばかりに胸を張ってこう言った
思うようにいかなかったとき、ライバルに競り負けたとき、込み上げてくるのが悔しさです。 自分を責め、相手を恨んで唇をかみしめ、歯ぎしりし、ワナワナと身を震わせたことはありませんか。 こんな姿、決して他人には見られたくありませんが、これこそがさらなる高みに押し上げる秘薬。 人の上に立つ者、番付が上位の者ほど、真の悔しさを味わった人間、と言ってもいいでしょう。 そんな悔しさにまみれた力士たちのエピソードです。 ※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。 【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第2回「自分に負けるな」その2 今度は俺の番! こちらも4年越しの意趣返しだ。平成19(2007)年秋場所12日目、新入幕にもかかわらず、10勝1敗で優勝争いの先頭を走っていた豪栄道(のち大関、現武隈親方)は西小結の日馬富士(当時安馬)にぶつけられ、後ろに回って持ち上げ、そのまま思い切り土俵に叩きつける“送り吊り落とし”という荒ワザで敗れ、左肩を痛めた。まだ上位でやるのは早いぜ、と言わんばかりの屈辱的な負け方だった。それを裏付けるように、快勝の日馬富士は、 「相手は新入幕、オレは三役。意地を見せなきゃ。番付の上と下とは違う。負けられないよ」 と鼻息荒く話している。 このとき、豪栄道はどんな思いでいたのか。それから4年後の平成23年5月技量審査場所12日目、東前頭筆頭の豪栄道は、10勝1敗と好調な新入幕の魁聖(現友綱親方)と対戦した。魁聖にとっては初の上位戦で、気負いこんで突っ込んでいったが、豪栄道に右からの下手捻りで苦も無く退けられた。文字通り捻り潰されたのだ。 上位の力をまざまざと見せつけた豪栄道は、支度部屋に戻ってくると、どうだ、と言わんばかりに胸を張ってこう言った。 「昨日、割を見て、明日は絶対に負けられない、と思った。自分も新入幕のとき、上位に当てられて力の差を見せつけられたからね」 やられたらやり返す。さあ、今後は魁聖が下から勢い良く上がってくる力士相手に意地を見せる番だ。 月刊『相撲』平成24年12月号掲載
相撲編集部