奥平大兼が映画『Cloud クラウド』で気づいた、謎の存在を演じる面白さ「映画的な役割、目の前の目的にフォーカスすると見えるものがある」
映画『Cloud クラウド』(公開中)の考察トークイベントが10月18日、TOHOシネマズ 日本橋にて開催され、奥平大兼が登壇した。 【写真を見る】『Cloud クラウド』への出演は「これまでにない経験がたくさんあった」と振り返った佐野役の奥平大兼 本作は、黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎え、憎悪の連鎖から生まれる集団狂気に襲われる男の恐怖を描くサスペンススリラー。奥平は、菅田が演じる転売屋として日銭を稼ぐ主人公の吉井良介に雇われるアルバイトの佐野役に扮している。佐野についての情報はこれ以上明かされておらず、映画公開後から「佐野は一体何者なのか」「佐野の正体が謎すぎる」などとSNSでも話題になっている謎の存在だ。今回のトークイベントでは、謎に包まれた佐野役について、佐野を演じた奥平自身が正体に迫るべくトークを展開。MCは映画感想TikTokerのしんのすけが務めた。 本作では、黒沢監督から登場人物の設定資料を渡されたが、読むか読まないかは役者の判断に委ねるとされていたそう。ただし、奥平に対しては「読まなくていい、できるだけ読まないでほしい」とリクエストがあったという。最初に台本を読んだ時には「佐野は謎だらけの役で、なにを基準にやっていけばいいのか」という感想を持ったそう。「どうすればいいんだ…」と悩んだが、黒沢監督と会う際に「分からないところを訊こうと思っていたら、『設定資料は読まなくていいです』って。鳥肌が止まらなかったです」と振り返り、苦笑い。「この映画では僕が一番若手。頑張らなきゃって気持ちがあるなか、役作りをどうすればいいのか…」と悩んでいたと明かした。 役作りについて「最初は不安しかなかった」と告白した奥平だが、MCから「奥平さんから黒沢監督への質問はなかったと聞いています」と伝えられ、「あれ?質問しなかったかなぁ…」と首を傾げる場面も。記憶に残っていることとして、「黒沢監督の演出は、これまで経験した感じとは違っていて、結構楽しくて。(現場で)黒沢監督からいろいろと話をしてくれるので、なにを言われるのか待っているところもあったので、もしかしたらなにも訊かなかったのかも」とも補足していた。 記憶が曖昧になっている理由のひとつには黒沢監督の“ある言葉”があったからかもしれないとも話す奥平。作中でのあるシーンの撮影の前日に「『菅田将暉を超えてください』と言われて。芝居を始めて4年目の人間が黒沢監督からそんなことを言われるなんて。ビビり散らかしていました。あれは一生忘れないと思います」と深く頷きながらコメント。続けて「あのシーンくらいから、佐野がどんどん分からなくなってくる(笑)。『なんなんだ、あいつ!』っていうのが際立っているシーンです」とニヤニヤ。 なにを考えているのか分からない佐野の印象的なセリフとして「アシスタントですから」を挙げ、「あの返しも、(佐野の行動の)理由にはなっているのかもしれないけれど、訊かれた質問の答えにはなっていない(笑)。なにを考えているのか分からない、佐野の不気味さが引き立てられているセリフです」と指摘。海外での上映では、このセリフでドッと笑いが起きたことが伝えられると、「この映画は怖かったって人も多いけれど、笑ったっていう人もいる。そういう反応があるのがおもしろいです」とうれしそうに話し、「アシスタントですから」というセリフについては、「佐野の吉井への忠誠心なのかなんなのか。吉井の言うことを聞いていないようなところが多いけれど、結果、吉井のためにはなっているような…」と佐野というキャラクターは考えれば考えるほど謎めいていく存在のようだ。 ■佐野のイメージは「過去になにかしらあった人」 映画の公式Xには本作での奥平が「黒沢監督作品の世界観のメフィスト的なキャラクターを完璧に演じている」という書き込みもあり、黒沢監督自身、海外メディアでのインタビューで「佐野の存在は悪魔と思ってくれていい」と話しているという。佐野を演じるにあたり、悪魔という意識はあったのかとの質問に「黒沢監督から『佐野は悪魔です』と言われたかどうかは覚えていないけれど、物語の進行上、悪魔的な立ち位置。吉井を渦の中に連れ込もうとしているようなふしがあるかなと。でも、悪魔という意識はしていないです」と答えた奥平は「正直、それどころじゃなかった。佐野という役がなにをしたいのか。吉井をどう導くのかという“佐野としての目的”のことしか考えていなかった。それが結果的に、黒沢監督の演出もあって、悪魔の象徴のような役になったのかなとは思います」と見解を述べた。 佐野については漠然と「過去になにかしらあった人」というイメージもあったそう。背後になにか大きな組織が見え隠れするようなシーンもいくつか登場している。職業も佐野との関係性も劇中では言及されていない千葉哲也役の松重豊とのシーンにも触れた奥平。「黒沢監督から同じ土俵に立ってと言われました。僕がどうやったらあの貫禄に抗えるのか…と思ったけれど、気持ちとしてはもう3日に1回こういうことがある、みたいな感覚でやっていました」と、黒沢監督からの“むちゃ振り”レベルのリクエストはこの映画にはつきものと捉えていたとし、堂々とリラックスしてやることがポイントだったとも明かし、大きな拍手を浴びる場面もあった。 謎めいた存在の佐野の銃さばきも話題に。佐野としての銃の扱い方について黒沢監督から「カッコつけないでください」とのリクエストがあったそう。「スマートに見えないようにと言われました。でも、(ターゲットを)ノールックで撃つシーンもあるから、家のなかでずっと練習していました。ライフルも慣れるまでめちゃくちゃ練習して。『うまくできていましたよ』って黒沢監督から言われました」と笑顔で報告。黒沢監督は銃を照らすライトにこだわっているそうで、「照明の方たちは、黒沢監督の好みを分かっていらっしゃる。銃が映るシーンでは『ちょっと斜めにすると黒沢監督が喜ぶよ!』みたいに教えてくれて」とスタッフからのアドバイスがあったと明かし感謝。完成した映画を観た時は「『よく映ってる!』って思ってうれしかったです」と誇らしげに語っていた。佐野を演じる際のポイントとしては「佐野はスマートというか、堂々としている。結果的にそれがカッコよく見えるというのを意識して、『カッコつけた』ところはあるかもしれない」とも説明した。 結局、佐野役については詳細を明かされないまま演じたという奥平だったが、その演出での気づきもあったようだ。「映画的な役割、目の前の目的、そういうものにフォーカスすると(映画のなかで演じることが)面白くなるというのを佐野という役以外にも教えてもらいました」と充実感を滲ませた奥平は「よく見ると、面白さを見出せるものがたくさんある映画です。黒沢監督もおっしゃっていたように、何回か観ていただけるとうれしい作品だと思っています」と呼びかけ、拍手と歓声に包まれながらトークイベントを締めくくった。 取材・文/タナカシノブ
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