寝不足は酔っぱらっている状態と同じ…睡眠時間が仕事のパフォーマンスに大きく影響する理由
睡眠不足が続くと人間関係に影響も…
睡眠不足では身体、精神、脳の疲れがとれないため、怒りっぽくなったり、周囲に対して無頓着になったり、他人に対する思いやりや協調性が失われたり、感情のコントロールができなくなり、職場だけでなく、友人やパートナーなどの人間関係にも影響が出てしまうこともあります。 仕事をしている中で、「毎日十分な睡眠をとっています」や「毎日お昼寝の習慣を取り入れたい」などは、「なんとなく言いにくい」「言えない雰囲気」と感じている方も多いのではないでしょうか。 しかし、毎日の1~2時間、ちょっとした寝不足が借金のように長期にわたって積み重なることや、慢性的な睡眠不足はボディブローのようにジワジワと身体、精神、脳を蝕ばみます。それによって、がんや心臓病、認知症、うつ病などの重大な疾病が発生し、日中のパフォーマンスだけでなく、生命予後を悪化させるというエビデンスが積み重ねられていくこともあります。 昔は、5時間寝た者は受験に失敗して落ちるが、睡眠時間を4時間に切り詰めた者は栄光に輝くという意味の「四当五落」や、寝ずに働くことを推奨するような謳い文句「24時間戦えますか?」などが当たり前のように言われていましたが、今では睡眠時間と人間の能力の間には、強い相関関係があることが科学的にも証明されています。 つまり、睡眠時間を削って学習をしたり仕事をしたりすることは、極めて非効率的なのです。 さらに、睡眠の量や質が低下すると日中の活動に支障が生じると同時に、精神的な苦痛を感じやすくなることも明かになっています(※5)。 「働くことと休むこと」や「活動と睡眠」は全く真逆のことに思えますが、実は同じベクトルにあるのです。ワーク・ライフ・バランスならぬ、「ワーク・スリープ・バランス」を確保することの意味と価値をきちんと理解することで、個人も企業も社会も健全な方向へと進んでいけます。 明日、今日よりもさらに高いパフォーマンスを発揮できる自分になるためにも、そして職場全体の安心・安全な環境を維持するためにも、1人1人がワーク・スリープ・バランスを意識したスケジューリングを組むように意識することが大切です。 「スマホをベッドに持ち込まない」「仕事のオンとオフの時間を決める」「やるべきことだけでなくやらないことも決める」「寝室の環境を整える」など、自分の時間や生活スタイル、性格に合わせて、無理なくできる快眠習慣から取り入れ、睡眠時間を確保していきましょう。 [参考文献] ※1 Van Dongen HP, Maislin G, Mullington JM, Dinges DF. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003 Mar 15;26(2). ※2 Lockley SW, Barger LK, Ayas NT, Rothschild JM, Czeisler CA, Landrigan CP; Harvard Work Hours, Health and Safety Group. Effects of health care provider work hours and sleep deprivation on safety and performance. Jt Comm J Qual Patient Saf. 2007 Nov;33(11 Suppl):7-18. ※3 Nakata A, Ikeda T, Takahashi M, Haratani T, Fujioka Y, Fukui S, Swanson NG, Hojou M, Araki S. Sleep-related risk of occupational injuries in Japanese small and medium-scale enterprises. Ind Health. 2005 Jan;43(1):89-97. ※4 Dawson D, Reid K. Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature. 1997 Jul 17;388(6639):235. ※5 osekind M, Gregory KB. (2010). Insomnia Risk and Cost: Health, Safety, and Quality of Life, the American Journal of Managed Care 16(8), pp. 617-626.
友野 なお(睡眠コンサルタント)