直木賞を受賞した一穂ミチさんの話題作「恋とか愛とかやさしさなら」、婚約者が盗撮したら…
啓久が「出来心」で「実害ない」と軽くみていた罪が、どれほど人を傷つけたか。今後の人生の中で、どのくらい代償を払うことになるのか。これは男の欲望の深淵(しんえん)をのぞき込むと同時に、現代社会における「罪と罰」を考えさせる小説だ。
「答えとか、正解がない小説を書いてみたかった。私自身、いまだに考え続けている」と一穂さんは言う。書きながら、何度も筆が止まった。それでも「今は皆がインスタントに、明快な解を求めすぎている。解がない問いを考え続ける時が、人生には必要ではないか」と感じている。
恋とか愛とかやさしさだけではない感情を探り当てる試みをひとまず終えて、「いや~疲れました」とほほえむ。80歳になる実母が、「味わったことのない感情がして、少し疲れました」とメールで感想を寄せてくれたのが、うれしかったそうだ。