「インドの伝統民族衣装が世界的に流行する」――ジャック・アタリ氏が予測する〈30年後の世界〉、その驚愕のシナリオ
2050年のアメリカは、経済、地政学、文化の面で支配的な勢力ではなくなる。ただし、同国の次に世界の経済と政治の「心臓」となれる国は存在しない…。ソ連の解体やウクライナ危機など数々の世界的危機を予見してきたジャック・アタリ氏はこのように予測します。商人が地政学、政治、価値観を支配する「商秩序」は、現在アメリカ・カリフォルニアを中心都市とする第9の「形態」を構築しています。来たる第10の「形態」では、世界はどのようになるのでしょうか? アタリ氏の著書『世界の取扱説明書』(林昌宏訳、プレジデント社)より一部を抜粋し、予測されるシナリオの一つを見ていきましょう。
----------------------------------------------- 私の推論を要約すると、最も可能性の高い未来は次の通りだ。生産、交換、商売によって生み出される富の蓄積を司るのは、依然として商秩序だ。商秩序は、地政学、政治、価値観を支配し続ける。第9の「形態」は崩壊する。アメリカは第9の「形態」を維持しようと試みるが、失敗に終わる。2050年のアメリカは、経済、地政学、文化の面で支配的な勢力ではなくなり、第10の「形態」が登場する。 -----------------------------------------------
「心臓」のない第10の「形態」
2050年になる前に、商秩序は生き残りを懸けて「心臓(=商秩序における中心)」のない「形態」をつくり出そうとするに違いない。 今から30年後、権力を握る「心臓」が存在しないとすると、どのような世界になっているのだろうか。 歴史を振り返ると、これと似たような状況は過去にもあった。それは西ローマ帝国崩壊後の帝国秩序の末期に相当する、5世紀初頭のヨーロッパの状況だ。ヨーロッパの帝国秩序はその後、中核になる帝国のない状態で、さらに600年間も存続した。一部の歴史家の主張とは異なり、その600年間は混乱した野蛮な時期ではなかった。あの時代を生きた人々の生活慣習と統治形式は、ローマを模倣していた。 ヨーロッパでは、帝国秩序が中心を持たずに600年間存続した後、商秩序へと移行した。商秩序の場合も「心臓」が交代するたびに、しばらくの間「心臓」なしの状態があった。 今後の30年間は、「心臓」なしの商秩序という状態になるのではないか。第9の「形態」が消失しても、世界中のほとんどの人々は、映画、テレビ、SNSで今日目にする西側諸国の人々(より具体的にはカリフォルニア社会)の価値観、欲望、ニーズを模倣するだろう(※カリフォルニア=第9の「形態」における「心臓」)。彼らは、夫婦や家族の概念、服装、消費と所有に対する渇望、競争心、個人主義、エゴイズム、不誠実さまで真似るに違いない。ローマ帝国が滅亡後に勝利したように、西側諸国は衰退と同時に勝利するのだ。 さらに、商という「形態」は「心臓」なしで長期的に機能すること、そして資本主義には世界を統制するための帝国的な国がもう必要でないことが判明するだろう(すでに判明している)。 ほとんどの商品が実際に海上輸送をされるとしても、支配的な港は存在しなくなるだろう。 政治、金融、産業、科学、テクノロジー、文化、イデオロギーのおもな手段を、1つの都市あるいは1つの地域に集中させる必要はなくなる。企業は、所在地をつくる必要もなくなる。 新たなテクノロジーを駆使することにより、より多くのデータ、価格、財を、分散的かつ物理的な拠点なしに管理できるようになる。よって、新たな「心臓」を生み出す意味がなくなる。