重要でデリケートなステムベアリング。ロアインナーレースの取り外しにあると便利な工具はコレだ!
取り外しが難しいこともあるロアインナーレース
ステムベアリングは数十kgの重さがあるフロントフォークやフロントホイールと、同じく数百kgの重量があるフレームやエンジンをつなぐ唯一の接点です。そのためアウターレースとロアインナーレースはそれぞれ圧入固定されています。 このうち、ベアリング交換作業のカギを握るのがロアインナーレースです。フレームのヘッドパイプ上下に圧入されたアウターレースの取り外しも手間が掛かりますが、確率的にはロアインナーレースの方が厄介です。 その理由は、ロアインナーレースが圧入されているステムシャフトの長さとロアブラケットの形状にあります。ロアブラケットとインナーレースの僅かな隙間をタガネで広げる作業手順はバイクメーカーのサービスマニュアルにも記載されていますが、ロアインナーレースは内径に対して厚みが少ないため、タガネなどで叩いた際に傾きやすく、シャフトに食い込み傷を付けるリスクがあります。 傾きを避けるにはレースの全周を均等に叩くことが重要ですが、ロアブラケットの形状によってはタガネが届かず、どうしても叩けない場所が残ってしまうことがあります。またサンダーでインナーレースを切断して取り外す方法もありますが、ロアブラケットやステムシャフトに傷を付けることがあるので注意が必要です。
ステムシャフト越しにレースを引き上げる専用プーラー
そんな面倒やロアインナーレース取り外し作業に重宝するのがベアリングプーラーです。ここで紹介するのはテーパーローラーベアリング用のプーラーで、数多くの特殊工具を開発製造しているハスコーの製品です。 テーパーローラーベアリングは先述のとおりインナーチューブとテーパーローラーが一体となっています。詳しく言えば、テーパーローラーはバラバラにならないよう金属製の保持器(リテーナー)で位置決めされており、インナーレースのつばにローラーの上端が掛かることで一体化されています。 ハスコー製のステムベアリングプーラーはテーパーローラー外周のサイズに適合したチャックを被せてロックすることで、インナーレース全周を均等な力で保持します。その状態でステムシャフト上端からプレッシャーボルトで引き上げることで、インナーレースが傾くことなくまっすぐ上方に引き抜くことができます。 ホールベアリング用プーラーが内径(アクスルシャフト径)に応じたチャックを使用するように、テーパーローラーベアリング用プーラーもインナレースサイズに応じたチャックが必要で、この製品には3種類のチャックが付属しています。 チャックのフィット感や工具全体の剛性は素晴らしく、しっかり圧入されたインナーレースにカチッとはまり、容易に取り外すことができます。ロアブラケット上面のハンドルストッパーの突起にチャックが干渉する懸念もあるのと、工具自体の価格が高価なのが懸念材料ですが、工具の性能には間違いはありません。 ステムベアリングプラーがテーパーローラーベアリング専用工具なのに対して、それよりも汎用性の高いベアリングセパレーターやギヤプーラーといた専用工具が使える場合もあります。これらはベアリングやインナーレースにタガネ状に成型された二分割式のプレートを食い込ませることで均等に力を加えながら、プレッシャーボルトで引き上げることができます。機種によっては、分割式プレートのボルトを締め付けるだけでロアインナーレースとブラケットの隙間にタガネが食い込み、インナーレースが外れることもあります。 細かく位置をずらしていっても、タガネで叩く際は一カ所ずつしか入力できず、それがインナーレースの傾きの原因となります。それに対して、ハスコー製のステムベアリングプーラーも汎用タイプのベアリングセパレーターも、ロアインナーレースの外周を複数の点で支えており、プレッシャーボルトで引き上げる際にもレースが傾くことはありません。 専用工具は一般的なハンドツールと違って、出番が少ない割に高価な場合が多く、購入するのに躊躇しがちです。しかし無理な作業でステムシャフトを傷つけてしまうと、傷口がさらに広がってしまうこともあります。安全で確実な作業をしたいなら、専用工具を活用するのが良いでしょう。 【POINT】 ●ポイント1・ステムシャフトに圧入されたロアインナーレースは取り外しが難しい場合があり、ベアリング交換時に支障となることが多い ●ポイント2・専用のベアリングリムーバーや汎用タイプのセパレーターで外周を保持することで、傾きを防ぎステムシャフトを傷めることなロアインナーレースを取り外すことができる
栗田晃