センバツ2019 啓新、粘り最後まで 初甲子園、足跡残す /福井
<第91回選抜高校野球> 雨中の一戦にスタンドは沸いた。第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第8日の30日、啓新は智弁和歌山(和歌山)との2回戦に2-5で敗れたものの、九回に小野田渉冴選手(3年)の適時打などで2点を返す持ち前の粘り強さを見せ、大応援団の喝采を浴びた。初の甲子園で確かな足跡を残した選手たちに、一塁側アルプススタンドからは「また夏に戻ってこい」と拍手が送られた。【塚本恒、矢倉健次】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 智弁和歌山 100020200=5 000000002=2 啓新 雨に打たれても、点を取られても「啓新ブルー」に染まったアルプスは最終回まで熱気を失わなかった。最後まで諦めずに戦う選手たちに、応援団からは大きな声援が飛んだ。 試合は、序盤から相手の猛打を浴びる展開に。一回表無死一塁で適時打を放たれて先制を許すと、二回終了後には今大会初となる1時間50分の雨天中断を挟んだ。再開後の五回表には計4安打の猛攻を受け、点差を3点に広げられた。 それでも先発した安積航大投手(3年)は身上とする直球と変化球を駆使し、丁寧にコーナーを突く投球でしのぎ続けた。母しげみさん(51)は「頑張っていると思う。とにかく大舞台を楽しんでほしい」と祈るように手を合わせた。 安積投手の球数が90球を超え、六回からは右横手投げの浦松巧投手(3年)がマウンドに上がった。祖母の吉田純永さん(69)は胸に手をやり「ハラハラするけど、巧は小さいころから気持ちの強い子だったから大丈夫」と話した。 浦松投手は七回に2点を失うも、以降は相手打線をしっかり抑えた。九回まで両投手で計15安打を浴びながらも5失点。耐え忍ぶような投球を見せた2人に、チームトレーナーの輪内健二さん(34)は「よく辛抱強く投げた。とにかく1点がほしい」と力を込めた。 九回裏、そんなスタンドの願いに選手たちが応えた。幸鉢悠樹選手(2年)の左前打などで1死満塁とすると、相手投手の悪送球で三塁走者の新谷隼都選手(3年)が生還。待望の1点を挙げると、続く2死二、三塁の好機で、今大会無安打が続いていた小野田選手が打席に立つ。「チームに迷惑をかけてきた。必ず後ろにつなぐ」。振り抜いた打球は三遊間を破る適時打となり、スコアボードに2の数字を刻んだ。敗れたものの最後まで全力を出して戦った選手たちは、試合後もさわやかな表情を浮かべていた。 ◇ダンスで盛り上げ ○…啓新のアルプススタンドでは、野球部員や応援に駆けつけた他校のダンス部員らが「はぴねすダンス」を披露=写真。昨秋催された福井国体の公式ダンスで、ベンチ入りメンバーの新谷隼都選手(3年)らが「明るく盛り上がっていいのでは」と提案し、昨秋の北信越大会から取り入れた。踊った後によく点が入るといい、部員らは「ここ一番の場面でやる勝負曲」。この試合では得点には至らなかったものの四回の攻撃で披露し、応援を盛り上げた。 ◇雨の中ゴミ拾い ○…ベスト8をかけた一戦は雨脚が強くなって二回終了後に中断したが、アルプススタンドではベンチを外れた啓新の野球部員らが“ファインプレー”を見せた。観衆が屋内に引き揚げる一方、ゴミ袋を持ってスタンドに残されたカップなどを拾い集めた=写真。「1回戦の後、スタンドに落ちているゴミが印象に残った」という狩野良威央さん(3年)の提案で、10袋分のゴミを回収した。試合が再開されると、晴れやかな表情で声援を送った。 ……………………………………………………………………………………………………… ◇家族の背追う、大黒柱 穴水芳喜主将(3年) 2時間近い中断を挟んだ敗戦にもなお、攻守の要としてチームをけん引した主将の表情は明るかった。「本当に強い相手でした」 山梨県に生まれ、スポーツ一家に育った。父芳浩さん(55)はソフトボールの地元チームに所属し、全国大会で優勝を経験。バレーボールの選手だった母瑞穂さん(49)は、実業団の山梨中央銀行で活躍した。長姉千香子さん(22)と次姉千恵子さん(20)も県内のバレー強豪高校で全国大会に出場している。 幼い頃、芳浩さんとのキャッチボールが野球を始めるきっかけとなった。真剣に取り組むにつれ、家族の存在が刺激となった。「みんなが全国の舞台で活躍している。自分も甲子園に行きたいと自然に思うようになった」 30日は芳浩さんの誕生日だった。「ヒットをプレゼントにしたかったけど、打てなくて悔しい。また夏に戻ってきたい」。父への恩返しは夏に取っておこう。甲子園を去る足は決して重くなかった。【塚本恒】