決して他人ごとではない…増加する「所有者不明の土地」が日本を揺るがす大問題となるワケ【中央大学法学部教授が解説】
いま日本では、所有者不明の土地が増加しています。「そんなの放っておけばいいじゃないか」と思ってしまうかもしれませんが、実は日本人の誰にとっても決して他人事ではないと、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏はいいます。本記事では同氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、所有者不明の土地問題について解説します。 都道府県「おひとり様高齢者率」ランキング
空き家に対する法律
空家等対策の推進に関する特別措置法という法律があります。それによれば、空き家の適正管理をしない所有者に対して、市区町村が、助言・指導・勧告といった行政指導、そして勧告しても状況が改善されなかった場合は命令(行政指導よりも重い、行政処分です。命令に従わなければ、50万円以下の罰金が科されます)を出すことができるものとされています。 また、この法律には、行政代執行という制度もあります。行政代執行とは、行政が所有者に何度も改善を要求しているにもかかわらず、所有者がそれに対応しない場合、行政が強制的に敷地に立ち入り、所有者に代わり、必要な対策を取るというものです。放置されているごみを撤去したり、倒壊の危険がある家屋を解体したりします。 所有権は、もちろん「権利」です。しかし私たちは、「権利」とは、同時に「責任」も伴うものであるという意識を持たなければならないかもしれません。
その土地、誰のもの?
そしてさらに、日本全体を揺るがす厄介な問題があります。いわゆる「所有者不明土地」問題です。現在、私有地であるのに所有者が誰だか分からない土地が、日本にたくさんあることを、読者のみなさんはご存じですか? ある調査によると、現在、所有者不明土地は全体で410万ヘクタールに上るそうです。これは、九州全土と同じくらいの大きさです。そして、このまま策を講じないと、近い将来、もっともっと広がってしまうそうです。 「そんなの放っておけばいいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、たとえば、何か災害があったときのことを考えてみてください。地域を復興するために、自治体が被災地を買い取って、新たな街づくりをしようとしても、それが誰の土地であるか分からなかったらどうでしょう。 実際に、東日本大震災の後、所有者不明土地が多数出てきて、高台移転などを含む復興の大きな障害になったといわれています。土地が市場から追い出されてしまい、有効活用ができなくなってしまうのは、大きな社会的損失です。