「めちゃくちゃ心配」された知的障害の女性が出産、「めっちゃいいお母さん」に 子育てを可能にした秘訣とは
北海道の不妊処置問題の背景には、障害者のグループホームでは子どもの支援は想定していないという制度的な壁がある。早川さんは「だったら、家族で暮らせる住まいを探すとか『こうしたらできる』という道を一緒に探ってほしい」と訴える。 実は、グループホームではなく一般の住宅やアパートなどで暮らす場合は、障害福祉のヘルパーが育児の支援もしてよいことになっている。 一定の条件があるが、厚生労働省は過去に2回、「一人一人の事情を踏まえて適切なサービスを提供するよう」自治体に通知している。家事だけでなく沐浴や授乳、保育園や学校との連絡といった支援が可能だ。ただ、自治体や障害者の間でもあまり知られておらず、ヘルパーの人手不足もあって十分に活用されていないのが実情だ。 ▽「みんな苦手なことはある」 1歳になった陽耀君は順調に育っていて、今のところ障害は見つかっていない。でも、もし今後、障害が見つかったら? 早川さんは葵さんにこう話している。「仮に障害があっても、人はいろいろ。みんな苦手なことはある。助けを受ければ自立できる。そういう気持ちでいればいい」
早川さんは自分が亡くなった場合の「親亡き後」についても、既に先回りしている。葵さんが自分で障害者手帳の更新手続きをできるよう、手順書を作ってあるのだという。 ▽取材後記 知的障害者が子どもを持つことに反対する人からは「最初から福祉をあてにすべきではない」との意見もある。早川さんは「そういう考え方をする人たちを否定するつもりはない」と言う。 ただ、一方でこうも話した。「年を取れば誰でも介護を受ける。みんな助けたり助けられたりの関係じゃないでしょうか。親の私が『あなたはこれができないから、こうしなさい』と娘の人生を決めつけるべきではない。障害があっても自分らしく生きてほしい」 葵さんを育ててきた早川さんの考え方は一貫している。「無理」と思い込まず、常に「どうやったらできるか」を考え、実行する。手間はかかるが、そのおかげで葵さんは多くの生活能力を身に付けた。陽耀君を世話する様子を見ていて、その事実を実感した。