ティモシー・シャラメ、『ウォンカ』で共演のヒュー・グラントへのリスペクトを明かす「僕の友達は、僕の作品よりヒューの作品が好き」
2005年、日本でも大ヒットを記録した『チャーリーとチョコレート工場』。めくるめく世界が広がるチョコレート工場はもちろん、ジョニー・デップが演じた工場長ウィリー・ウォンカの怪しげな魅力が多くの人を虜にした。ウォンカは、いったいどんな人物なのか?そのルーツを探る新たな物語を描く『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』が12月8日(金)に公開される。 【写真を見る】待望の来日を果たした、ティモシー・シャラメの麗しき姿! 幼いころから、世界一美味しいチョコレートの店を開くことを夢見ていたウォンカ(ティモシー・シャラメ)は“チョコレートの町”へ向かって、自慢のチョコレートを人々に振る舞う。その成功を阻もうとするチョコレート業界の実力者チョコレート組合3人組、さらにウォンカのチョコレートを狙う謎の小さな紳士ウンパルンパ(ヒュー・グラント)によって、事態はとんでもない方向へ…!カラフルな映像やミュージカルシーンにも心ときめくが、最も楽しませてくれるのは、役にハマりまくったキャストたちの魅力かもしれない。 若き日のウォンカを演じたのは、『君の名前で僕を呼んで』(17)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)などで、いま最も勢いのあるスターの一人、ティモシー・シャラメ。チョコレート作りへの情熱を名演し、歌とダンスの才能も披露する。そしてウンパルンパ役で、『ラブ・アクチュアリー』(03)などのヒュー・グラントが驚きの姿で登場。本作のために来日した2人に、それぞれの役にかけた想いや、撮影秘話などを聞いた。ヒュー・グラントの“半分ジョーク”のような受け答えは、いかにも彼らしい。 ■「すべての要素が僕に『イエス』と言わせた」(シャラメ) ――まず、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』に参加しようと思った決め手から聞かせてください。 ティモシー・シャラメ(以下、シャラメ)「ロアルド・ダールの原作はもちろん、過去の2作の映画でのウォンカのキャラクターも大好きでした。そしてポール・キング監督とも仕事をしてみたかったんです。『パディントン2』は本当に心温まる作品でしたから。その『パディントン2』にも出ていたヒュー、さらにローワン・アトキンソンなどすばらしい共演者…と、すべての要素が僕に『イエス』と言わせました」 ヒュー・グラント(以下、グラント)「僕は劇場の大きなスクリーンで観られる映画が好き。撮影や美術にこだわるポール(・キング監督)は、そういった作品を作る映画作家で、しかもシネフィル。だから一緒に仕事をしたくなるんです」 ――この作品で大きなチャレンジとなったのは、どんな部分ですか? シャラメ「これまで僕は、どちらかといえばシリアスでヘビーな役が多く、ここまで喜びにあふれた世界は初めて。『楽しんでいいんだ』と自分に言い聞かせたことが新鮮でした」 グラント「僕にとっては、すべてがチャレンジ。演技はいつも緊張しますし、なんだか居心地が悪く、悲しい気分になっていくんです(笑)」 ――ウォンカ役はかつてジーン・ワイルダー、ジョニー・デップが演じています。あなたは以前に「シザーハンズ」にも扮しました。デップを受け継いでいる気持ちもあるのでしょうか。 シャラメ「ジーンもジョニーも僕の最も大好きな俳優です。ジョニーに関しては意識的ではないけれど、あれほど多様な役をこなせる人なら、どんな俳優でも憧れるものでしょう」 グラント「シザーハンズ役もやったの?知らなかった」 シャラメ「スーパーボウルのCMで。撮影時は大きなハサミで周りを傷つけそうで怖かった…(笑)」 ■「僕の子どもたちはいまもウンパルンパの曲を歌い続けてる」(グラント) ――ウォンカと、ウンパルンパの共演シーンは、どのように撮影されたのですか? グラント「ウンパルンパにはモーション・キャプチャーが使われたので、僕はいくつものカメラが付いたヘルメットを被ります。モーション・キャプチャーの場合、別の場所で別撮りするのが基本ですが、今回は相手とのケミストリーを作るため、キャプチャーの機材がセットに持ち込まれました。一緒にリハーサルをしたあと、僕だけ小さなテントの中に入って演技をするわけです。かなりうまくいったと思います」 シャラメ「ヒューの演技をモニターで見ることができたので、次のテイクでどうリアクションすればいいか、僕もすぐに準備ができました。もし別撮りだったら、想像しながら演技をしなければならなかったでしょう」 ――映像で自分のウンパルンパの姿を見て、どう感じましたか? ヒュー「最初に仮のイメージを見せてもらい、『こんな姿であれば僕を嫌いな人にも愛されるはず』と思いました(笑)」 ――キング監督はロアルド・ダールの原作を読んだ時、ウンパルンパがあなた(グラント)の声で聴こえてきたと言っていました。ご自身もウンパルンパに合っていると思いますか? グラント「もちろん僕もぴったりだと自覚しています。ウンパルンパは感傷的なことが嫌いで、自分をすばらしい人間だと思っている。一方で悲劇的な面もあるところが、僕に似ているんじゃない?」 ――本作にはミュージカルシーンがたっぷり盛り込まれています。 シャラメ「僕は高校時代に少しだけミュージカルを学びましたが、映画では初めてで大きなチャレンジになりました。歌とダンスだけではなく繊細な演技もして、さらにカメラに対して(画面内の)位置を守らなくてはならないんです。舞台のミュージカルだったら、ステージ上を自由に動き回れるんですけど」 グラント「(ウンパルンパの曲が)悪夢のように頭の中に流れています。僕の子どもたちはいまも歌い続けてるし(笑)」 ――歌とダンスのトレーニングにはどれくらい時間をかけたのですか? シャラメ「振付師のクリス・ガテリと2か月半、ニューヨークとロンドンでダンスのトレーニングをしました。音楽スーパーバイザーのジェームス・テイラーとは、やはり2か月半くらい今回の曲を練習しました。さらにボーカルコーチのエリック・ヴェトロと、今回のウォンカ役の声の出し方を作り上げたんです。次(の作品)のボブ・ディラン役でもエリックから指導を受けます。ボブ・ディランとウォンカは、歌うという共通点はあっても、本質がまったく逆のキャラクターですから」 グラント「ボブ・ディランは生で見たことあるの?」 シャラメ「はい、ブルックリンのコンサートに行きました。アメリカのコンサートではスマートフォンで撮るのがけっこう自由ですが、ボブ・ディランの場合はスマートフォンをしまわなくてはいけなくて、そこが新鮮で、音楽に集中できました」 ――1曲のなかで衣装が次々と変わるシーンもありますね。 シャラメ「あのシーンはいろいろな場所に移動するので、僕のお気に入りの一つです。当初はメインのシーンではなかったけど、結果的に大きな見せ場になりました。路面電車やバーバーショップ、カフェなどは衣装を変えて撮り、メインの広場のカットはロンドンのリーブスデン・スタジオに信じられないスケールのセットが作られたんです。周りにはチョコレートショップや教会があって、まるで夢の国に迷い込んだようでした」 ■「僕の友達は、僕の作品よりヒューの作品が好きだと言っている」(シャラメ) ――大量のチョコレートが登場しますが、実際にたくさん食べたのですか? シャラメ「ショコラティエの方たちが絶品のチョコレートを用意してくれたので、いっぱい食べました。特に“ひとすじの光”という稲妻のマークのチョコが最高でしたよ」 グラント「そのせいでティモシーの体重が増えて、映画もワイドスクリーンになったんじゃない?ほっそり見えるようにCGで加工されてるんだよね(笑)。僕はチョコレートを1個ももらえなかった。まあ高級なチョコはあまり好きじゃないから…。カカオの分量が少ない安いチョコがいいよ」 ――共演者としてのお互いへの想いを聞かせてください。 グラント「ティモシーはキャリアがまさにノンストップの右肩上がり。一方で僕はいまや右肩“下がり”の状態。美しいシンメトリーを作っているよね(笑)」 シャラメ「いや、僕の友達は、僕の作品よりヒューの作品が好きだと言ってますよ。僕も『モーリス』から『ノッティングヒルの恋人』『ラブ・アクチュアリー』、そして『パディントン2』まで長年のファンなので、心からリスペクトしています」 ――キング監督は観る人の心を温かくする作品が得意です。 シャラメ「監督は撮影現場にお嬢さんを連れてきて、チョコレートの泉などを見せていたのですが、その光景を横で見ながら、温かい人柄を実感しました。映画のトーンと性格は同じですね」 グラント「僕がポールの才能を感じたのは、本作に(『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』で知られる)チャールズ・ディケンズの要素を取り込んだ点です。ウォンカたちが恐ろしい運命に巻き込まれる一方で、大人たちが冷酷な仕打ちもする構図は、人間の負の面もえぐるロアルド・ダールに、ハートフルなディケンズの世界を重ねたかのよう。砂糖と塩を絶妙にブレンドした、うまい設定だと思います」 ――そして最終的に本作は夢を見ることの大切さを教えてくれます。 シャラメ「この映画のウォンカを見てもらえばわかりますが、誰かに『NO』と言われてもそれを受け入れないことが大切です。そのためには夢を諦めず、足を止めず、自分を支えてくれる仲間を作ればいいのです」 グラント「そうそう、仲間は大事。でも年齢を重ねると、周りの友達は僕の失敗を喜ぶようになったけど(笑)」 ――では最後に、本作の続編への期待を聞かせてください。 シャラメ「正当な続編が作られるなら、ぜひやらせてもらいます」 グラント「ウンパルンバの起源を描く前日談なんておもしろいんじゃない?」 シャラメ「たしかにそっちも観てみたい(笑)!」 取材・文/斉藤博昭