<春に挑む・関東一センバツへ>/上 「先輩の夏」は悔し涙 新チーム「公式戦無敗」目標に /東京
昨年11月5日の秋季都大会決勝。四回、相手打者の打球が右翼スタンドに吸い込まれると、関東一の先発・坂井遼(はる)(2年)は逆に緊張がほぐれた。得意の直球と変化球を織り交ぜ、その後は14者連続凡退に打ち取り、追加点を許さなかった。チームが逆転し、九回に最後の打者を打ち取ると、一番に駆け寄ってきた主将の高橋徹平(同)と抱き合った。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち すぐに他の選手たちが2人を取り囲み、人さし指を突き上げて喜びを爆発させたが、坂井は試合後しばらく涙が止まらなかった。「自分が先輩の夏を壊してしまった」。悔しい思いをした昨夏から頂点をつかみ取るまでの日々を思い出していた。 昨年の東東京大会は、優勝候補が相次いで敗退する波乱の夏だった。その年のセンバツに出場した二松学舎大付が3回戦、春季都大会の王者・帝京が5回戦でそれぞれ敗退した。春夏通算14回の甲子園出場経験がある関東一も例外ではなかった。 5回戦の相手は日大豊山。2年生ながら背番号「1」をつけた畠中鉄心がマウンドに立ち、七回までに5度の3者凡退を重ねた。だが、互いに得点できず0点のまま延長に入り、同じく2年生の坂井が延長十回タイブレークに登板した。「絶対に抑える」とマウンドに上がったが、飛んできた打球を捕り損ねて無死満塁のピンチに。気迫のこもった投球で2死まで追い込むが、直後に2連続安打を放たれ3点を許し、チームは敗退した。 「自分のせいで負けた」。試合後、自分を責める坂井のもとに3年生が駆け寄り、「お前らの代は甲子園に行けよ」と声をかけてくれたが、涙で返事ができなかった。好機で1本が出ず無安打に終わった坂本慎太郎(1年)も、初戦でけがをした3年生の代わりにマスクをかぶった熊谷俊乃介(2年)も悔しさをかみしめていた。 夏の都大会が終わり、新チームが始動した。寮のミーティングルームの黒板には力強く「公式戦無敗」の目標が書かれた。【小林遥】 ◇ 甲子園で3月18日に開幕する第96回選抜高校野球大会に、都内から関東一が出場する。同校が春の切符を手にするまでの道のりを振り返る。 〔多摩版〕