芥川賞イチオシ候補作は? 書店『双子のライオン堂』店主に聞く、純文学の楽しみ方
『##NAME##(ネイム)』
【『##NAME##(ネイム)』(著・児玉雨子)】 ジュニアアイドルをしていた過去の自分(主人公)とどう距離感を保っていくかという話。ジュニアアイドルをしていたということを、ある人は“闇”と言ったりするんですけど、それが抽象化されて他人が抱くイメージと、自分が実際に体験したこととの狭間というか、間(あわい)で揺れ動く。もちろんそのことが発端で嫌なこともめちゃくちゃあるんだけど、自分の過去を簡単に否定もできない。全体を通してタイトルの意味が色々と重なっていくのも注目です。
『エレクトリック』
【『エレクトリック』(著・千葉雅也)】 多感な高校生が、時代の進歩によって広がっていく世界の中で、自分の性や家族と向き合っていくお話。読みやすいお話ですが後半がいろんな受け取り方ができるので難解と感じる人もいそうです。前半から中盤にかけて高校生の親との関係など、多感な気持ちを丁寧に書き出していて面白い作品です。
『それは誠』
【『それは誠』(著・乗代雄介)】 主人公が修学旅行の自由時間を使っておじさんに会いに、クラスメイトを付き合わせる小さな冒険の話。行動を一緒にするクラスメイトとの距離感やたわいもない会話が青春時代の雰囲気や匂いすら浮かび上がらせてきます。静かな感動が宿る小説で、『スタンド・バイ・ミー』や『ライ麦畑でつかまえて』などが好きな人に読んで欲しい作品です。
■時代を映す候補作
――最近の純文学のテーマに多いのは? 最近の傾向だと仕事小説的な部分もあったりして。近年は社会の問題だったりとか、市井の人が抱えている困難とかをテーマにする傾向にあるような気はします。学生のいじめの問題であったりとかもそうだし、社会人の貧困問題、差別の問題とか、そういうものがテーマになることは多いと思います。 ――普段、純文学に親しみのない人でも手に取りやすい作品が多いですか? 社会の問題に関心がある人とか、自分自身が当事者として何かを抱えている人にとっては、考えるきっかけにはなりやすい気はしています。 読書に何を求めているのかによると思うんですよね。時代時代によって違って、純文学でも非常に突飛(とっぴ)な、難解で読者に激しいストレスみたいな物をぶつけるような作品もあるし、どっちかっていうと起承転結のないもの、日常系とまではいかないですけど、そういうものが(芥川賞)候補になる時期もあったりして、そこは時代を反映しているような気はしています。 ――竹田さんのイチオシは? 『##NAME##(ネイム)』です。すごくいろんな問題が閉じ込められているんですけど、読み物としてうまく構成されているような気がしていて。短い中に、社会と個人の話が書かれていて、ちゃんと読んでスッキリするような形になっている。今まで(文学を)読んでいなかった人でも読めるかもしれない。 あとは『我が手の太陽』。溶接工の話の中でも、この作者(石田夏穂さん)は、仕事の現場を舞台にした小説をよく書いている印象なんですけど、仕事というものを丁寧に、主人公がどう捉えているかとか、読者の多くの方から見ると未知な仕事の手順とかをかなり細かく書いていると思うので、想像しやすく読みやすいんじゃないかなって気はします。 受賞予想は、おすすめとは変わってきますね。乗代雄介さん『それは誠』かな。どれも面白いから難しい。何度か候補になっているし、ここでとってほしいですね。(※乗代さんは今回4回目のノミネート)