ギャルが大ブーム。なのに、かつて渋谷を埋め尽くした"ガングロギャル"はどこへ行ったのか?
――その後「ヤマンバ」「ゴングロ」と呼ばれるような先鋭化したスタイルまで到達したものの、本書にもあるように2008年頃に「ガングロ・ルック」は衰退。それを07年のiPhoneの登場と重ねていました。確かにスマートフォンやSNSの隆盛以降、街で「ガングロ・ルック」を目にする機会が減った実感はあります。 久保 まず「ガングロ・ルック」は街では目立つけれど写真ではあまり目立たない、つまり「映えない」という理由が考えられます。 あるいは先ほど話したように、街の中でビーチのような偶然の出会いを求める場合、自分の思想や価値観を外見で主張する必要がありました。「ガングロ・ルック」も強烈な外見で「私はこういう人間です」とアピールする機能があったのです。 しかし、インターネット上なら、外見以外にもプロフィールの文章や過去の投稿などで自分のキャラクターを伝えることができ、近しい人とつながれる。外見以外にも伝えられる手段が増えたのです。 ――「ビーチイズム」は欧米の海から渋谷を経由し、そしてインターネットの海に移り変わった。そんなインターネット上では近年、ギャルのような外見よりもギャルのような精神性を重視した「マインドギャル」現象も生まれています。 久保 今回取材したガングロギャルの方々が、皆さん口をそろえて「ギャルは外見ありき!」とおっしゃっていたのが印象的でした。 インターネットが一般化する以前の若者たちは、学校や職場、男女の垣根を越えたつながりをつくるためには街に出るしか方法がなかったし、そこでは外見でアピールしないと自分のことを周りに伝えることができなかったんだと思います。 ――マインドを伝えるためであるからこそ、むしろ外見が重要視されていたと。 久保 どちらの根底にもマインドが存在していて、街で外見を使って表現するか、ネット上で写真やテキストを使って表現するかという違いですよね。 ――来期のNHKの連続テレビ小説も、"ギャル文化"がテーマに。ギャルリバイバルはさらに盛り上がる可能性を秘めています。今後「ガングロ・ルック」の復活はあると思いますか? 久保 可能性は低いでしょう。現在の「平成ギャル」ブームと呼ばれている現象は、過去のギャルのいいとこどりをしている印象で、例えば90年代のルーズソックスや00年代の巻き髪やデカ目も採用する一方で、「ガングロ・ルック」は採用される気配がありません(笑)。 極端な話、忍者や侍のような歴史上の存在になったんだと思います。それこそ、ギャル文化が連続テレビ小説のテーマになるくらいですから(笑)。 ■久保友香(くぼ・ゆか) 1978年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員などを歴任。専門はメディア環境学。シンデレラテクノロジー研究者。著書に『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版) ■『ガングロ族の最期 ギャル文化の研究』イースト・プレス 3300円(税込) 肌を黒く焼いた「ガングロ・ルック」の背景にはビーチへ向かう精神性「ビーチイズム」があった。「ガングロ・ギャル」は時代とともに変容し、実際のビーチから渋谷の街へ、そしてインターネットに舞台を移したことで、ついには街から姿を消した。彼女たちの残した記録や証言を元に、その源流を丁寧にひもといていく。ギャル文化というフィルターを通し、日本人は何に憧れを抱いてきたのかを問う戦後日本のメディア論ともいえる一冊 取材・文/藤谷千明 撮影/佐々木里菜