体内に棲みつき、遺伝子にも入り込み…「ウイルスにまみれて生きているわれわれ」がいま正しく知るべきこと
ウイルスというと病気の感染を思い起こし、撃退すべき存在というイメージが強い。 だが、じつはわたしたちの体にはウイルスが常に存在している。 【画像】古代エジプト王のミイラの顔に天然痘ウイルスの痕跡が! ウイルスと人間の意外な関係を見ていこう。 【※本記事は、宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』から抜粋・編集したものです。】
ウイルスまみれの人体
ウイルスはつねに悪者というわけではない。われわれの身の回りには病原性を持たないウイルスがいくらでもいる。 われわれのからだの表面や気道や消化管の内腔には多くの細菌が存在して常在細菌叢を形成しているが、実はこれらの場所には多種多様なウイルスが同時に存在していて、常在ウイルス叢というものが存在する。 常在細菌叢はわれわれのからだにとって大事な役割をしていることが最近わかってきたが、ウイルスも同様なのかもしれない。どうも何かの必然性とともに多種類のウイルスがわれわれのからだに常時存在しているようにみえる。 さらに、私たちの遺伝子の中には非常に多くのウイルス由来の配列が散在している。これに加えて、ウイルスそのものまでがゲノムの中に挿入されていることがあり、その一部はなんとヒトの遺伝子として働いていることがわかってきた。 つまり、ウイルスは外界からの侵入者ではなくて、一部のものはわれわれの体内に棲みついて、われわれはそれを利用しているのである。われわれのからだという「母屋」がウイルスに「軒を貸した」状態になっていて、まさに「ウイルスはそこにいる」のだ。 それにしても、なぜわれわれの遺伝子の中にまでウイルスが入り込んでいるのだろうか? もしかして、この世に人類が現れてくるためにウイルスが必要だったのかもしれない。だとすれば、ウイルスは、敵対者ではなく、欠くことができない同居人なのかもしれない。 そもそも、いくら自分のまわりを清潔にしても、ウイルスはわれわれのからだの中にまで入り込み、棲みついている。そして人間はその一部を自分たちの生命活動のために利用している。単純な排除論、撃退論は役に立たない。 われわれは、ウイルスと闘いながらも、あるときは共存、共生し、その中で生き抜いて進化してきたという事実を忘れてはならない。そのように考えると、今後大事なのは、ウイルスに対していかに対処し、いかに共存するかだ。そのためには、われわれはウイルスというものを「正しく知る」必要がある。 ウイルス感染症の理解の根幹となる免疫学とウイルス学は日進月歩の世界であり、日々、新しい知見や発見が報告されている。この本では、免疫学者の宮坂とウイルス学者の定岡が、人類とウイルスとのやりとりを目の当たりにしながら、その意義を、広く一般向けに解説することを考えた。 ただし、ウイルスは多種多様で、それらを網羅的に取り上げるのは不可能だ。そこで、本書では、数あるウイルスの中でも、われわれのからだに潜むあるいはその可能性のあるウイルスに主にフォーカスを当てることにした。免疫機構の監視をくぐり抜けて、私たちのからだに潜伏するウイルスである。その中には悪玉だけではなくて、善玉もいる。 「ウイルスにまみれて生きているわれわれ」にとって、本書が、改めてウイルスの意義について考える機会になれば幸いである。 * 私たちのからだは一見きれいに見えても実はウイルスまみれだった! 宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)は、免疫学者とウイルス学者がタッグを組んで生命科学最大のフロンティアを一望します!
宮坂 昌之/定岡 知彦