真っ暗闇の被災地に、全壊した書店の看板だけ明かりがついていた…なぜ? 83歳店主が込めた、ある決意 「がれきの下に今も1万冊が埋もれている」
久さんに好きな本を聞くと、鴨長明の「方丈記」を挙げてくれた。「人間がどれだけ焦ったところで、年月がたてば大抵のものは消えてなくなる。人生のはかなさみたいなものを教えてくれる本。そういうのを現代のあくせくしている人にも分かってほしい」。店の横にある掲示板には、冒頭の一節を貼ってある。「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず―」 久さんに、どうしても聞きたかったことを尋ねた。「全壊した店舗なのに、何で明かりを付けているんですか?」。照らされている看板は、創業時のデザインを復刻したもの。レトロな雰囲気を醸し出す店の顔で、6年ほど前に淳成さんが手がけた。久さんは語る。「街中が停電で真っ暗だったので、少しでも明るくしたいと思って」。太陽光発電設備を取り付けていたが、地震の揺れで外れたため、発生翌日に修理したという。 私が「書店の灯を消したくない、という思いもあるのでは?」と聞くと、淳成さんが間髪入れずに返してくれた。「そうなんですよ。この人がね、再建すると言って聞かないと思います。僕は半年くらい休めると思ったんですけど」。久さんは照れくさそうにはにかんだ。「そこまでじゃないけど、とりあえず明るくしようと思ってね」。その表情には「地域の書店をなくさない」という決意がにじんでいるように感じられた。
久さんはこう締めくくった。「被災者には明るく元気になれるような本を読んでほしい」。店を再開したら、また自慢の選書を並べるつもりだ。