大量の土砂、えぐられた線路 大井川鉄道の被災区間を歩く
【汐留鉄道倶楽部】静岡県中部を南北に走る大井川鉄道(大鉄)は、蒸気機関車(SL)を保存、活用する地方鉄道だ。ここ10年ほどはきかんしゃトーマス号を運行し、内外の観光客を楽しませてきた。日本の近代化を支えた産業遺産であるSLを「生きた状態」で楽しむことができる、貴重な鉄道だ。 【写真】半世紀ぶりのSL終夜運転 秩父鉄道、団体専用列車で
その大鉄が大きな試練に立たされている。2022年9月、静岡県を襲った台風15号によって甚大な被害を受け、当初は全線運転ストップ。大井川上流の山岳地帯を走る井川線(25.5キロ)は約1カ月で運転を再開したが、金谷でJR東海道線と接続する大井川本線(39.5キロ)は、北側約半分に当たる川根温泉笹間渡―千頭(19.5キロ)の復旧のめどが全く立っていない。 災害から1年半経過しても依然癒えない傷痕を直接見てもらおうという「被災区間見学ツアー」が5月、2度にわたって開催され、同行取材した。 見学するのは下泉―田野口の1駅間(3.6キロ)。あらかじめ歩きやすい靴や懐中電灯を準備するように伝えられていた。担当者には「途中、ヤマビルが出るので虫よけスプレーは必須」と脅された。 当日は天気が良く湿度も低かったので、幸いヒルの被害に遭う人はいなかったようだ。全国から集まった約40人のツアー参加者は記念に持ち帰ることができる大鉄のヘルメットを、取材陣は自社のヘルメットを装着、下泉の駅構内から線路に入り、枕木を踏みながら黙々と歩き始めた。
歩き出して約10分後、土砂崩れの現場に突き当たった。大量の土砂が線路を覆う。正確な時期は分からないが「再崩落」があったという。少し歩くと今度は道床が流され、線路と枕木が宙に浮いている場所に来た。道床の流失は他にもあり、川が土砂で埋まってしまったために、あふれ出た水がすぐ横の路盤をえぐり取った箇所も。川が流れていた橋の下は土砂が詰まっていて、橋を渡った先、浮いた線路の下に水がちょろちょろ流れている不思議な光景を目にした。 線路に大きな倒木が横たわっているのにも出くわしたが「いつ倒れてきたかは不明」。この区間は片側が大井川の河床、反対側が高い崖という狭い地形を走っており「崖の上に県道が走っている」と言われても、上の地形はまったく見えない。線路脇には板状に割れた石が転がっていて、地質のもろさも感じられ、二次、三次被害が十分予想された。 これまで国や県、地元自治体、大鉄などが今後について話し合う検討会を開いており、今年3月、「早期の運行再開を目指した検討を継続する」ことを確認した。だが運行再開には約22億円が必要で、大鉄にとっては自社の負担分を調達するだけでも相当困難が予想される。応急措置だけではさらなる被害を防げないことを考えると、現時点は復旧へのスタート地点にすら立っていないとも言える。
ツアーを企画し、現場で参加者への説明役も務めた竹上禄宏計画課長は「鉄道事業地以外の対策もしないとならない。かなりの費用がかかることを、実際に見て理解してもらえると思う」と話した。 見学を終え、帰りは本線の運行区間をSL列車で新金谷に向かった。列車に乗り込む観光客、列車に手を振る地元の人々…。観光資源として、地元の足として多くの人々が納得する鉄道として生き残ってほしいと思う。 ☆共同通信・八代到