カラフルな街角、ジャズの生演奏も聞こえる…「どんな人が住んでるの?」神戸のアパートを訪ねてみた
神戸・元町の北側に位置する諏訪山の麓。坂道を上った先に、ひときわ存在感を放つアパートがある。赤、黄、青、ピンク…。屋根も外壁も色鮮やかに染まり、まるで異国の街角のよう。アパートの中からはジャズの生演奏が聞こえる。「一体どんな人が住んでいるんだろう」。訪ねてみると、新型コロナウイルス禍を機に半ば自然発生的に生まれた、芸術と文化のるつぼのような場所だった。(井筒裕美) 【写真】峰のりえさんがアパートの一室で開設したレンタルスペース ■コロナ禍「海外気分を味わってほしい」が始まり 神戸市中央区山本通4に立つ築約60年の賃貸アパート「アートテラス」。今のカラフルな装いになったのは、コロナ禍真っただ中の2021年4月。海外渡航が難しい中、大家でインテリアコーディネーターの若本宏美さんと夫の順二さん=同市中央区=が「道行く人に海外気分を味わってほしい」と外装から室内までリノベーションを行った。 宏美さんが改装のモデルにしたのは、デンマーク・コペンハーゲンのブロック玩具を積み上げたような街並み。ただ韓国やアルゼンチン、メキシコにも似た景観があるといい、「いろいろな人が、自分が海外旅行で訪れ、すてきと思った街と重ね合わせてくれる」とほほ笑む。 すると改装後、アパートには自然に、芸術や音楽好きの借り手が集まり出した。プロの音楽家は一室で教室を開き、チェロやコントラバスの音色が、住民や道行く人を楽しませている。 「ほかの建物にはないカラフルでハッピーな感じや、昭和感あふれるところが好き」と話すのは、モデルでフォトグラファーの峰のりえさん(39)。色彩豊かな外観や、すりガラスなど昭和レトロな設備に引かれて昨年夏、アパートを借りてレンタルスペース「Atelier(アトリエ)の」を開設した。 室内にこだわりの家具を集め、自身の写真撮影スタジオとして利用しながら、ギャラリーやポップアップショップのスペースとして貸し出している。かねて自分のアトリエも欲しかったといい、「一つ夢がかなった」と峰さん。「今後はホームパーティーに利用してもらったり、子ども食堂も開いたりしたい」と夢を膨らませる。 新たな交流も生まれている。峰さんはレンタルスペースをきっかけにさまざまなアーティストとつながりが増え、大家の若本さん夫妻とは、一緒にダンス教室やギャラリーに行く友人になったとか。「仲間に入れてもらい、毎日が楽しい」と話し、世代の違う人たちが集うのもアパートの魅力という。 異世代間の交流が盛んな秘訣(ひけつ)を、宏美さんが教えてくれた。宏美さんは周囲に自身の年齢を言っておらず、「敬語で話されると、どうしても壁ができてしまう。年齢を考えず、カラフルなものが好きで、個性的で、趣味が合う人と対等に接したい」とする。夫妻で同市垂水区の集合住宅もカラフルに改装したという。 集う人たちの夢や交流を育む一風変わったアパート「アートテラス」。今日も芸術談議の声や音楽が響いている。