日本株取引の30分延長、相場の波乱助長に懸念の声-売買増加も幻想か
大引け時取引の利便性を向上させるクロージング・オークションが、かえって日中取引の流動性を低下させるリスクもある。パッシブ運用の増加で大引けでの売買が年々増えているためだ。東証がまとめたデータによると、1日の取引で大引けが占める割合は10年の4%台から直近では16%台まで高まっている。
実際、クロージング・オークションの導入を機に、これまで不正な価格形成への関与を疑われるリスクを回避するため、大引け時の取引を見送ってきた国内運用会社の間で方針転換の動きが出てきている。
大和アセットマネジメント・トレーディング部の横山智美トレーダーは、大引け取引への参加を検討していることを明らかにした上で、今回の制度変更で「引けの出来高は増えるだろうが、逆にザラ場の流動性が減るのではないかが気になる」と述べた。
三菱UFJ信託の瀧山氏は「現時点では大引け注文のほとんどが午後2時59分台に入ってきており、需給が見えにくい」と指摘。クロージング・オークションの導入で「需給動向がある程度早めに把握できるようになる」とみている。
ノンキャンセル・ピリオド
終値形成の透明化策として期待されるクロージング・オークションにも不安要素はある。同制度を導入する海外取引所の多くは価格操作を防ぐため、注文受け付け後の板寄せ時間をランダムにしたり、板寄せの直前数分間は注文の変更・取り消しを禁止したりしているが、東証は今回こうした規定を設けず、大引け直前の1分間を重点監視対象とするだけにとどめた。
大和アセットの横山氏は、大引け時取引の透明性向上は期待できるものの、板寄せ直前の注文を訂正あるいは取り消す「『ノンキャンセル・ピリオド』がないのは不安」だと言う。
ただ、UBS証券によると、日本株の大引け時のボラティリティーは現時点で他のアジア市場に比べ低い。異なる指数間の価格差から利益を得ることを目的とし、市場を安定化させる役割も持つ裁定取引(アービットラージ)を行う投資家層が厚いためだ。クロージング・オークションの開始を機に大引け時の売買は一定程度増えると予想されるが、懸念されるほど混乱するリスクは小さいかもしれない。
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Hideyuki Sano