日欧が中国を念頭に経済安全保障を巡る連携強化:米国の対中戦略の不確実性も意識か
戦略物資で中国依存度を下げる
日本と欧州連合(EU)は、経済的、地政学的課題について戦略的な連携を協議する「日・EUハイレベル経済対話」を定期的に開催している。近日中にパリで開く閣僚級による「日・EUハイレベル経済対話」では、中国を念頭に特定国に戦略物資の調達を依存しないことなどを定める共同声明を発表する予定だ。 背景には、中国と日欧との間で貿易摩擦が激化していることに加え、日欧にとって、中国製品への依存度の高まりが、経済安全保障上の大きな脅威になっていることがある。 対象となる戦略物資は、半導体と電気自動車(EV)、太陽光パネルなどとなる。こうした製品やそれを製造する部品材料の調達で、中国への依存度が高まれば、中国が貿易の制限などで他国の政策に圧力をかける「経済的威圧」につながりかねないことを、日欧ともに強く警戒している。 EVについては、中国は米国と欧州の間で既に激しい貿易摩擦が生じている。中国ではEVが過剰生産の状況にあるとみられるが、政府が巨額の補助金でEVメーカーを支援し、その結果、中国製EVが欧州市場に過度な安価で輸出され、欧州のEVメーカーに不当に打撃を与えている、とEUは主張している。欧州では、経済安全保障の観点から、中国製EVを締め出す動きが広がってきている。 EUは2023年10月に、輸入された中国製EVに関して、相殺関税措置を発動する可能性も視野に入れた調査に着手した。EUは中国からの輸入自動車に対して標準の10%の輸入関税をかけている。そのもとで中国製EVの市場シェアは2023年に8%程度にまで上昇し、2025年には25%に達する可能性があるとされる。EUは、今年10月に、中国政府の補助金により中国製自動車がEU製より20%程度安く販売されているとして、関税を引き上げるかどうかの調査を開始した(コラム「米政府がEV製造サプライチェーンの中国依存低下を狙って新指針」、2023年12月8日)。 他方日本は、中国からの影響を受けずに半導体を調達することに、より強い関心があるだろう。台湾積体電路製造(TSMC)の工場を巨額の補助金を通じて日本に誘致したのはその一環だ。また日本は、米国が主導するインド太平洋地域における経済面での協力の枠組み、インド太平洋経済フレームワーク(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)に参加し、その中で、参加国間で半導体など重要物資のサプライチェーンの構築を進めている。