フランスの“安楽死”法案が「友愛の法」と名付けられた理由 マクロン大統領が強調する「死の支援法」の中身
難病に苦しむ人への「共感」を示すための安楽死法
その後、夏を過ぎ冬が来ても動きはなかった。 遅々として進まない状況に対して、自らが喉頭がんを患い苦しんでいる、歌手のフランソワーズ・アルディが、2023年12月17日付で大統領に手紙を送り、「重病で回復の見込みのないフランス人が苦しみを止められるように」、われわれ(難病患者)に「共感」を示すよう、安楽死に関する議論を復活させるよう訴えた。 しかし12月20日の会見では、マクロン大統領は手紙に心を揺るがせられたとしながらも、「痛みにもっと寄り添いたい。そしてまずは“緩和ケアのフランスモデル”の“完成”を目指す」と、まだ慎重姿勢を示していた。 ところが冒頭で述べた2024年3月10日の記者会見では、先のアルディ氏をはじめ絶望的に苦しんでいる患者に、「共感」を示す形で、「友愛」の法、「個人の自律」と国家の「連帯」 を調和させる法として、一定の厳しい条件下で死の支援を求める可能性が開かれる法を作成すると述べたのだ。 「人道的に受け入れられない状況があるため変化が必要だ」とマクロン大統領は語った。 そして、慎重に言葉を選びながら、以下のように述べたのである。 「 私たちは死の支援(aide à mourir, aid in dying)という用語を選んだ。それが単純で人道的であり、私たちが語っていることを定義しているからだ。安楽死 (euthanasie, euthanasia)という用語は、同意の有無にかかわらず、誰かの人生を終わらせる行為を指すが、ここでは明らかにそうではない。また、自殺を自由かつ無条件に選択する支援自死(suicide assisté, assisted suicide)でもない。新しい枠組みは、特定の状況において、正確な基準で、医学的決定が果たすべき役割を持つ可能な道筋を提案する」
「死の支援法」の特徴
つまり「死の支援法」とは、特定の状況にある患者に対して患者の意思を尊重し、死を支援する法だというのである。さらに、法の梗概について、マクロン大統領は以下のように語った。 1.適格条件:この支援は、不治の病に苦しむ成人(18歳以上)のみが利用できる。これらの人々は、すぐにあるいは近ぢか死に至り、耐え難い身体的または精神的苦痛を経験している。 したがって、判断能力を損なう精神疾患または神経変性疾患(アルツハイマー病など)の患者は、この支援から除外される。 2.プロセス:死の支援を希望する患者は48時間後に選択を再確認する必要があり、その後最長2週間以内に医療チームから回答が得られる。その後、医師は致死薬の有効期限が 3カ月の処方箋を発行する。その間は、患者は意思を撤回できる。 3.許可した場合:医療チームが許可した場合、致死性物質が患者に処方され、患者はそれを自己投与するか、身体的に無力な場合は第三者の援助を受けることになる。この第三者はボランティア、主治医、看護師などであり、投与は患者の自宅、老人ホーム、介護施設などで行われる可能性があるとしている。 4.許可されなかった場合:医療チームが患者の要請を拒否した場合、患者は別の医療チームに相談するか、異議を申し立てることができる。 このようにマクロン大統領は慎重に言葉を選びながら、フランスの「死の支援法」は他国における安楽死法あるいは支援自死法とは一線を画す法である、ということを強調している。 しかし、これから法案が立法化されていくなかでさらにその相違が明らかにされていくとしても、果たして、「死の支援法」はこれまでオランダをはじめとする国々で立法された安楽死法と異なるものなのだろうか。 梗概だけを見る限り、これまで立法された安楽死法とマクロン大統領が強調するフランスの死の支援法はそれほどの画期的な相違がないように、私には思われる。