【洗濯用洗剤】花王、ライオン、P&G…各社の「最新機能」も丸わかり! 熾烈なシェア攻防戦の中身
「日本の洗濯を変える1本です」 昨年8月、花王が販売を開始した『アタックZERO パーフェクトスティック』には、そんな売り文句がついている。松坂桃李(35)、賀来賢人(34)、菅田将暉(31)、間宮祥太朗(31)、杉野遥亮(28)という豪華俳優陣が出演しているCMの宣伝効果も相まって、この商品は発売3ヵ月で累計8000万本を出荷するメガヒットを記録した。 【洗濯用洗剤の三国志】次はこれをつかってみようかな!アタック、アリエール、トップ…ズラり一覧 「スティックの中には『次世代型発泡パウダー』が入っており、水に触れた瞬間にそれが発泡しながら溶け広がることで頑固な汚れを落としてくれる。事前の部分洗いやつけ置き洗いをしなくて済み、スティックをつまんで洗濯機に入れるだけなので計量の必要もない。普段家事をしない人でも、これなら簡単に洗濯をすることができます」(Webサイト『All About』の家事ガイドで、住生活ジャーナリストの藤原千秋氏) 計量不要で、洗浄力も歴代最強クラス。パーフェクトスティックは、たしかに日本の洗濯を変えるのかもしれない。 しかし、「日本の洗濯」がどのように変遷していったかを理解しなければ、このパーフェクトスティックの真価を理解することも困難だ。花王OBで経済ジャーナリストの高井尚之氏が話す。 「そもそも、’50年以前、日本人は洗濯に固形石鹸を使っていました。しかし’51年、石鹸を製造していた花王が日本初の合成洗剤『花王粉せんたく』を発売。’56年には、同じ生活用品メーカーのライオンが『トップ』を発売し、高度経済成長期とともに少しずつ粉末の洗濯用洗剤が浸透していきました。’79年にはライオンが『酵素パワーのトップ』を発売。タンパク汚れを分解する成分として初めて酵素を配合し、飛躍的に洗浄力を向上させたのです。これにより、トップが業界1位の座を確固たるものとしました」 ところが――。’87年、ライオンに後れを取った花王が、″第一次洗濯革命″を起こす。初代『アタック』の発売である。 「アタックはコンパクト洗剤の先駆けで、箱の大きさはそれまでの洗剤の4分の1ほどでした。当時の洗剤といえば、『洗剤を買う日は他の買い物ができない』と言われるほど大きくて重かった。ところがアタックはコンパクトなので、『これなら食材のついでに買って帰れる』と人気を博したのです。また、計量スプーンをつけたことも画期的でした。持ち運びが楽で、すぐに適量を投入できるという便利さが、主婦層に大きなインパクトを与えたのです」(高井氏) この年、日経新聞のヒット商品番付で、アタックはアサヒビールの『スーパードライ』とともに横綱に位置付けられた。 現在でも、アタックブランドの商品は業界全体のシェアの約35%を占める。 ’95年には「アタック 液体タイプ」が発売。フタに計量用の目盛りがついており、粉末洗剤のように溶け残りが起きることもない画期的な商品だった。この「溶け残りしない」という強みは、’11年の東日本大震災で花開く。国を挙げての節水への動きと、少ない水でも溶け残らない液体洗剤は、相性がよかったのだ。 しかしいつの世も、消費者というものは″慣れ″の達人。アタックの発売から約四半世紀が経った’10年代、市場には、「いちいち計量スプーンですくって入れるのは面倒くさい」という雰囲気が蔓延していた。 ◆「つまんで入れるだけ」の衝撃 そんな’14年、アメリカに本社を構える世界最大の消費財メーカー、P&Gが″第二次洗濯革命″をもたらした。 「『アリエール』と『ボールド』の2つのブランドで、日本初のジェルボールタイプの洗剤を発売したのです。液体を水溶性のフィルムで包んでおり、洗濯機に入れるだけ。洗濯物が多ければもう一つ入れればいい。『簡単に計量できる』洗剤から、『計量の必要がない』洗剤へと進化を遂げました。こぼれたり、手についたりしてストレスを感じることのない、エポックメイキングな洗剤と言えるでしょう。ライオンや花王にも水溶性フィルムを作る技術はあるはずですが、今からジェルボール洗剤を作っても、二番煎じ感が否めません」(クリーニング会社を経営する洗濯ハカセの神崎健輔氏) アリエールは現在、花王の『アタック』シリーズに次ぐ業界2位、シェア約25%を誇る。 第二次革命勃発から5年後、花王は「計量不要」という新時代のキーワードを、プッシュ式の洗剤で実現する。 「ワンハンドプッシュで使える『アタックZERO』は便利。洗濯物の量が少なければ2回、多ければ6回プッシュなど、量の調節が非常に簡単です。ジェルボール洗剤とは異なり、アタックZEROは無臭のシリーズなので、さまざまな柔軟剤を併用できる選択肢の多さも、大きなメリットになります」(前出・藤原氏) 利便性で争うP&Gと花王に対し、ライオンは機能性とマーケティングで対抗している。 「『NANOX one』シリーズを押しているライオンは、加齢臭などを抑えてくれる『ニオイ専用』、頑固な汚れや臭いも取ってくれる高級版の『PRO』など、使うシチュエーションによって洗剤を分けることを消費者に提案している。安価な『スタンダード』を手に取らせたうえで、プロ納得の洗浄力を誇るPROをアピールするというマーケティングです。この方法はP&Gも参考にし、『アリエールジェルボールプロ』を今年4月に発売しました。これから洗剤業界では、高級版の商品が流行するかもしれません」(前出・神崎氏) ジェルボール、プッシュ式、そしてラグジュアリーマーケティング。戦略は三者三様だが、どれも液体洗剤であるという点は同じだ。しかし、液体洗剤には弱点もある。 「洗浄力を第一に考えたら、やっぱり粉末の合成洗剤なんですよ。液体洗剤は水で割っているので粉末より薄く、漂白効果はさらに落ちてしまうんです。運動部に所属する子供がいる家庭や、外で作業をする職業の人々が粉末洗剤を使うのは、それだけ粉末に洗浄力があるからなんです」(前出・藤原氏) かくして、冒頭で紹介した『パーフェクトスティック』は誕生した。水溶性フィルムでコーティングされているため計量不要で、中身は「次世代型発泡パウダー」、つまり粉末。パーフェクトスティックは利便性と洗浄力、どちらも併せ持つ、″第三次洗濯革命″の寵児である。 「アタックシリーズが、全洗剤の中で最も売れている理由は、『ブランドの鮮度』です。日常使いの洗剤は、新しさを打ち出さないと消費者に飽きられてしまう。しかし花王は、アタックのブランドを使いながら、常に新商品を生み出し続けている。過去の常識にとらわれない切り替えの速さが、花王の王者たる所以です」(前出・高井氏) 次に4度目の革命を引き起こすのは、花王か、P&Gか、はたまたライオンか? 3強による血で血を洗う「シェア攻防戦」を制し、ライバルに新時代の洗礼を浴びせるのはどの企業なのだろうか。 『FRIDAY』2024年7月5・12日号より
FRIDAYデジタル