ちょっと待った!? そのバーゲンセール、本当におトクなの?
今年も年が明けて冬物のバーゲンが始まりました。バーゲンセールと聞くと心がウキウキしてじっとしていられないという女性の方も多いと思いますが、今回はこのバーゲンセールについて、行動経済学の観点から少し冷静に考えてみましょう。経済コラムニストの大江英樹さんが解説します。
バーゲンって本当におトクなの?
最初に、そもそもバーゲンは本当におトクなのでしょうか? 「何を言ってるの! おトクだから買いに行くんじゃない」と言われそうですが、多くの人はバーゲンセールを「日頃のご愛顧に感謝して、お店が出血大サービスで損をしても私達がトクになるように安く売ってくれるイベント」と考えているようです。もちろんひと口にセールと言ってもいろんなパターンがありますから一概には言えないと思いますが、多くの場合、お店は決して損をすることはありません。儲かるからセールをやっているのだと考えるべきでしょう。 その証拠にこういう場合がよくあります。プロ野球で優勝したチームの親会社や関連会社が「優勝記念セール」というのをやりますね。ところが優勝しなくても「ご声援感謝セール」とか「残念セール」と銘打ってセールをやります。要はどっちでもいいのでセールをやりたいのです。なぜなら儲かるからです。実際、商店にとっては余分な在庫を持つということは財務で考えても機会費用で考えても大きな損失ですから、少々安くても放出してしまうほうが明らかに利益の増加につながります。 ところが、このバーゲンセールには人間の心理を巧みについた様々なマーケティング上の仕掛けがほどこされていると考えた方がいいでしょう。具体的な例を考えてみましょう。
「参照値」、「ディドロ効果」、「希少性原理」って何?
まずは、値札の修正です。コートの価格が5万9,000円と書いてあるのを赤い取り消し線が引いてあって2万9,900円となっていたらどう感じるでしょう。価格の変化だけで安い! と感じて飛びつきそうになります。でも本当にそのコートが価格に比べて品質が良いかとか、そのコートが本当に必要か、といったことを考えて購入しようとするでしょうか。価格の変化だけでつられて買ってしまう人も少なからずいると思います。これは行動経済学のプロスペクト理論でいう「参照値」です。つまり人間は絶対値で判断するのではなく、数値の変化で判断しがちになるということです。これがバーゲンの場合に作用してきます。 二つ目は「セール対象外商品」の存在です。前述のようにセールが儲かるものなら店の陳列を全部セール商品にした方が売り上げは増えると考えられるにも関わらず、なぜわざわざあまり売れそうにもない「セール対象外商品」を置くのでしょうか。理由は二つあります。一つは対象外商品を置くことでセール品がいかに安いかをアピールすること、前述の参照値と同じです。そしてもう一つは「ディドロ効果」と言われるものです。これは良い物を買うとそれに合わせてほかの良い物も買いたくなる心理です。セールで良い服をゲットできたら、ついアクセサリーも良い物に揃えたくなる。そこにアクセサリーがセール対象外商品として並んでいたら……。つい買ってしまいそうになります。 三つ目は「限定による希少性原理」です。期間限定、数量限定などなど、人間は“限定”されると弱いのです。これを希少性原理と言いますが、必要のないものまで「限定品」と言われるとつい手を出してしまいがちになります。したがってセールにおいてはしばしば「タイムセール」とか「先着〇名様限り」といった手法が使われることになります。