セ・リーグ史上初の10勝投手不在の異常事態のなぜ?
史上稀にみる大混戦となっているセ・リーグで、もうひとつの史上初の記録が続いている。 10勝投手ゼロの異常事態だ。パ・リーグでは、日ハムの大谷翔平(21)が、球宴前の7月10日に早々と10勝に到達したが、セ・リーグでは今だに10勝到達投手が現れない。過去の記録を繰ると、最も遅く10勝に到達したのは、1988年の中日、小野和幸の7月30日。つまり8月10日時点での10勝投手不在は、セ・リーグでは史上初で、10勝到達1番乗りの最遅記録を更新中となる。ちなみにパ・リーグでは、1993年のオリックス、野田浩司の8月7日が、最遅の10勝到達一番乗りの記録だ。 なぜ、こんな異常事態がセ・リーグに起きているのか。 評論家の与田剛氏の分析は、こうだ。 「それぞれの防御率を見てくださいよ。決して悪くない。つまり打線との噛み合わせの問題です。今季のセ・リーグの特徴は、横浜DeNA、ヤクルト以外の4チームの打線の低迷です。巨人の不振は、今なお続いていますよね。広島も、序盤はエルドレッドがいないなど、頼りの外国人選手が結果を出せずに苦しみました。中日も、打線の弱さを解消できずにペナントから取り残されようとしています。また交流戦で、打線の弱いセ・リーグがパ・リーグに完敗したため、そこで勝ち星を伸ばせなかったというのも理由のひとつでしょう。そして、どうしても打線が打てないと『1点もやれない』というピッチャー心理が生まれ、コントロールが気になり、ピッチングに余裕がなくなり、そういう力みがコントロールミスや球威に影響を与えるという悪循環も引き起こしてしまいます」
現在、10勝にリーチをかけている投手は3人いる。9勝7敗の中日、大野雄大(27)、同じく9勝7敗の広島、前田健太(27)、9勝5敗の阪神、藤浪晋太郎(21)の3人だ。それぞれの防御率を見ると、大野が2.61、マエケンが2.36、藤浪が2.77と悪くない。 10勝到達1番乗りの可能性が最も高かった中日の大野は、7月8日の阪神戦で9勝目を記録して以来、4試合連続勝ち星に見放された。7月15日のヤクルト戦では、8回3失点とゲームを作りながらも、山中浩史、ロマン、オンドルセク、バーネットのリレーの前に1点しか奪えなかった。8月6日の横浜DeNA戦でも、7回2失点と、ハイクオリティピッチングを守ったが、味方の援護に恵まれず黒星に変わった。 マエケンも7月24日の巨人戦では、2失点完投をしながらも、菅野智之、山口鉄也の前に味方打線は、1点しか奪えずに敗戦投手。その次の登板となった31日の横浜DeNA戦では、6失点して2回KOされたが、与田氏が指摘するように不、振の打線に対するプレッシャーが原因のひとつになったのだろう。 パ・リーグのチームの1試合の平均得点は、楽天、オリックス以外は、すべて4点台。ソフトバンクなどは、4.56点もある。それに比べてセ・リーグは全球団が、3点台。最下位の巨人は3.25、続く阪神は3.33.中日も3.41しかない。数字は、援護なき孤独なピッチャー像をクローズアップしている。 それでも、前半戦、波の大きかった藤浪には、安定感が生まれているし、マエケンも10年ぶりとなる広島の敵地での巨人3タテの原動力となるなど10勝到達は、もう目の前にある。 与田氏は、10勝到達の条件をこんな風に見ている。 「打線との巡り合わせもありますが、力まずに、うまく力を抜くことでしょう。この感覚はなかなか難しいのですが、心理的な影響などを受けて力むとフォームバランスを崩し、コントロールやキレを狂わせます。藤浪がよくなっているのは、この抜く感覚を覚えている部分にあると見ているんですが、混セを抜け出すのは、ローテーの中心になる10勝投手が勝ち星を積み重ねることにありますからね」 10勝にリーチをかけている3人のうち、次の登板が、最も早いのは、明日11日からの阪神3連戦に登板予定の大野なのだが、史上最遅となる10勝1番乗りとなるのは果たして誰?