「プーチンに命を狙われる」ロシア人記者が国を捨てウクライナへ突撃取材…その実態はまるで「スパイ映画」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第11回 『「何も罪のない人を巻き込んでしまった」…プーチンを批判したロシア人記者を襲う「ロシア当局」のヤバすぎる「報復」』より続く
英国エージェントとの出会い
夜の帳の中をタクシーはモルドヴァの首都キシナウのはずれにある小さなホテルに近づいた。カーキ色のズボンをはいたスポーツマン風の背の高い男が、わたしを出迎えた。 「ピーター?」 用心しながらわたしはきいた。 「はい。お待ちしていました」 低い声でイギリス人のピーターは答え、ホテルのほうへ歩き出した。スーツケースをつかんでわたしはピーターの後を追った。 エレベーターに乗った。薄暗い照明の中でわたしはじっとピーターの厳しい表情を見つめた。見るからにイギリス諜報部員だ。おそらくわたしを出迎えるために特別に派遣されたのだ。 なぜドイツのメディアがイギリス人を雇うのだろう? これは夢ではなくて、本当にわたしの身に起きていることなのだろうか? 答えの見つからない問いが次から次へと頭に浮かんだ。しかし質問はせず、ただ黙って不可解な見知らぬ男を観察した。 部屋のドアまで行くと、ピーターは電子キーでロックを開けた。中に入る前に、ピーターはあたりを注意深く見まわした。廊下にはわたしたち以外、誰もいなかった。 「尾行されているということ?」 わたしは気になってきいた。 「あらゆることをチェックしなければなりません。今回は特に秘密のクライアントということですから」 ピーターは窓に寄り、分厚いカーテンを開け、注意深くどこか遠くを見た。窓の外は暗闇で、ポツンと街灯が光っていた。
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