【連載】会社員が自転車で南極点へ10 本音でぶつかり決裂
予定より早いペースもストレスたまる
【連載】会社員が自転車で南極点へ10 本音でぶつかり決裂
「共同生活」というのは自分には不向きらしい。南極点まで半分の距離に至り、南極での生活や日々の走行が、日常へと変わっていった。僕達は、予定していたより2日間速いペースで進んでおり、何一つ心配する要素はないはずだった。しかし、自分でも気付かないうちに、ストレスはたまっていたのかもしれなかった。4日目の夜、僕達の間に亀裂が走ったのだ。 【前回分】会社員が自転車で南極点へ9 南極旅行で気になるトイレの処理とは
決裂のきっかけは何気ないことから
きっかけは何気ないことからだった。この日も僕はテントの設営を一人で行っていた。雪のブロックでテントの周りを固定し、更に周りに雪の壁をつくる作業だ。別に飲み水用の雪も用意する必要があった。これらに1時間半を要した。この日は腰が痛く、時間がいつも以上にかかった。 その疲れが出てしまったのか、僕はテントに戻ると溜息をついた。すると、 「Yoshi、お前なにか言いたいことあるのか?」 エリックが僕に言った。明らかに不満そうな顔だった。 「え?」僕は答えた。 「お前は何が不満なのか?」エリックは僕に話しかける。 僕は「なんでもないよ」と答えた。 確かに不満はたまっていた。テントの設営作業がきつかったし、飲み水用の雪を用意するのも大変だった。雪の壁をつくる必要にも疑問を抱いていた。晴天が続いていたからだ。
狭いテントで互いに逆方向に寝転がる
狭いテントの中、少しでもスペースを確保するために、僕達はお互いの足が、お互いの頭に来るように逆方向に寝転がっている。ずっと身体を洗っていないため、臭いも気になる。 いつもは、テントの中に湿った手袋や靴下を干して乾かしていた。しかし今回は、エリックの装備が先に干されるため、僕のものは冷たい床に置いたままだ。 GPSの電源も気になっていた。しかし、太陽電池はエリックが持っている。使う事はできなかった。ソロのほうが安全だった。僕のそんな思いが表情に出たのだろう。 「なんでも言ってくれ」エリックは迫ってきた。僕は仕方なく、重い口を開いた。