パナソニック オートモーティブシステムズ、松本工場を公開 超多品種少量、変動生産の車載モノづくりに対応
パナソニック オートモーティブシステムズは11月12日、IVI(イン・ビークル・インフォテインメント)など車載製品の生産を行なう松本工場(長野県松本市)の様子を公開した。 【画像】松本工場エントランスホール。松本蟻ヶ崎高校書道部による書が飾られている 1974年4月にカーラジオの生産拠点として操業を開始し、2024年はちょうど50年目の節目を迎えたパナソニック オートモーティブシステムズの松本工場。「多品種少量、変動生産に追随できる業界ナンバーワンのモノづくりイノベーター」をビジョンに掲げる松本工場を訪ね、同社のものづくりの取り組みを追った。なお、松本工場がメディアに公開されるのは今回が初めてとなる。 パナソニック オートモーティブシステムズの松本工場は、パナソニックグループの車載製品のモノづくりを牽引する「グローバルトップランナー工場」に位置付けられており、IVIやディスプレイオーディオ、カーナビゲーションなど、車室空間を快適に過ごすための車載製品を中心に生産。コンカレント開発を可能にする新工法の導入などにより、カーメーカーから要望される多品種少量生産にも柔軟に対応するほか、次世代モノづくり人材のリーダーを教育する役割を担う拠点にもなっている。 敷地面積は東京ドーム1.5個分にあたる6万9000m2、建屋面積は2万7400m2。従業員数は約480人、協力会社を含めて約1300~1400人が勤務する。 パナソニック オートモーティブシステムズ インフォテインメントシステムズ事業部 松本工場の粟澤学工場長は、「松本工場は、世界ナンバーワンシェアのディスプレイオーディオと、世界2位のシェアを持つIVIを生産している工場である。現在、IVIが、松本工場の生産の約半分を占める」と胸を張った。 パナソニック オートモーティブシステムズは国内生産拠点として5つの工場を持ち、松本工場のほかに、車載スイッチやセンサーなどの設計開発、製造を行なっている福井県敦賀市の敦賀工場、車載カメラやETC車載器の量産開発と製造を行なう福島県白河市の白河工場も、2024年に50周年を迎えている。 松本工場を含む3つの工場は、50年の節目を迎えながら、それぞれの生産品目において、最先端のモノづくりを実践するとともに、世界10か所の海外生産拠点のマザー工場としての役割も担っているという。 1974年に稼働した松本工場は、カーラジオの生産でスタート。その後、8トラックカーステレオやナビゲーションシステムを生産。自動車の進化に伴い、生産品目を進化させていった。一時期はエンジンEUCやスマートエントリーシステム、カメラECUなどの車載デバイスも生産していた。 2001年にはセル生産を導入し、2004年には全ラインにセル化を導入。2011年にはマシンセルを導入している。2014年からは液晶モジュールの生産を開始し、ディスプレイオーディオの生産にもマシンセルを導入。さらに、2016年には基板組み立ての自動化ラインを導入し、2018年には材料供給用のAGVを導入している、部品の構内搬送の自動化を開始した。2020年にはIVIの自動化ラインの構築に乗り出しており、共通部分が多い内機部(シルバーボックス)の組み立てなどを、ロボットを使って自動化している。 現在では、IVIのほか、フルディスプレイメーター、RSE(リアシートエンタテインメント)、リモートチューナー、電子ミラー、HUD(ヘッドアップディスプレイ)、PND(ポータブルナビゲーションデバイス)、ディスプレイオーディオ、ワイヤレス充電器、USB BOXを生産。また、2024年度に新たに開設した三重県松坂市の松阪拠点には、松本工場で製品していたナビゲーションシステムを移管している。 パナソニック オートモーティブシステムズ松本工場の粟澤工場長は、「松本工場では、革新的なHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)や、通信機能、車載情報連携、スマホ連携機能などを有したインフォメーションとエンタテインメントを組み合わせた車載機器を生産している。100年に一度の変革期を迎え、クルマがクルマへと進化し、ソフトウェアのアップデートでクルマの機能がバーションアップされる世界が訪れている。走る、曲がる、止まるといった基本性能だけでなく、移動空間の快適性が求められており、それにあわせて、ソフト化する車載コクピット領域に、異業種から企業が参入し、競争が激化している。そのなかでも、IVI事業ではグローバルトップクラスを走り続けていく」と意気込んだ。 特徴的なのは、ソフトウェアの多様化、ディスプレイサイズの差別化、多様な消費者ニーズに応えるため、増加する機種数に柔軟に対応できる「超多品種、少量生産」に対応している点だ。700機種の生産に対応し、100台以下の生産台数が約7割を占め、月間の機種切替数は3000回以上に達するという。 「数年前には、1台の車両に対して、2~3機種程度のカーナビが用意されていたにすぎなかったが、いまは選択できる機種が10~20機種へと広がっている。北米や欧州、アジア、日本といった仕向け地ごとに仕様が異なったり、右ハンドル用と左ハンドル用でも違いがあったりする。それにあわせて、松本工場で生産するIVIの機種数も広がっている。また、1台のIVIには約5種類の基板が搭載されており、それによって、基板実装ラインでの切替数も多くなっている。切替回数は、パナソニック オートモーティブシステムズのなかで、松本工場が最も多い」とした。だが、「切替が多発すれば、稼働率の悪化や生産能力の低下という課題につながるが、むしろ、これをビジネスチャンスに捉え、変種変量にジャストインタイムで対応する追従力を強みにしていきたい」と語った。 また、生産現場における改革の取り組みについても説明が続いた。 中期的な取り組みとして、「ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)プロセス革新」「SCM(サプライチェーンマネジメント)プロセス革新」「脱炭素環境への取り組み」の3点とともに、創業者である松下幸之助氏が打ち出した「モノをつくる前に、人をつくる」という姿勢をもとにした「土台づくり」の強化にも挑んでいる。 ECMプロセス革新とSCMプロセス革新では、「リアルタイムに現場を可視化」「需要と連動した生産計画」「正味付加価値を生まない作業の合理化」「設計・製造コンカレントシームレス開発」の4点の取り組みを挙げる。 「リアルタイムに現場を可視化」では、タイムスタンプを活用して、製造リードタイムを実測して可視化。工程のボトルネックがどこにあるのかを捉え、そこを中心に改革し、さらに結果を可視化するといった繰り返しによって、改善を進めることになる。これにより工程内の中間在庫を抑制することができているという。 「需要と連動した生産計画」については、顧客から収集した需要データをもとに、生産計画を立案するという仕組みを導入。従来は15日先から1週間分の生産計画を立案していたが、この仕組みでは、15日以内での所要変動には対応できず、完成品在庫を過剰に抱えてしまうといった問題が発生していた。こうした課題を改善するために、2023年度から、後補充生産方式を新たに導入し、8日先に1日分を確定する形へと短縮および改善を行なったという。 「完成品倉庫の販売実績をもとに、毎日、8日先の1日分の生産計画を確定。需要が変動し、減産が必要になった場合にも急ブレーキを踏めるようになり、完成品在庫の抑制につなげられる。また、お客さまから見ても、注文してから生産開始まで15日かかっていたものが、8日前の注文でも、在庫次第では生産が可能になる。ECM革新およびSCM革新を同時に進められている」と手応えを示した。 3つめの「正味付加価値を生まない作業の合理化」については、トヨタ生産方式(TPS)の考え方を取り入れたカイゼン活動を2年半にわたって展開。現場確認によって得た事実をテータ化したほか、からくり技術の習得、TPS手法の実践や一人工の追求などを推進してきた。「TPSの導入については、お客さまとのつながりを強化しながら、生産現場の改善を進めてきた」という。現在は、松本工場独自のモノづくり改善活動を推進し、改善文化を根づかせる活動に注力しているとのこと。 4つめの「設計・製造コンカレントシームレス開発」では、製品設計と工程設計を連携させ、構造設計の段階から、バーチャルで工程設計の検討を進めるために、シミュレーションシステムの開発を行なっている。このツールを活用することで、工程設計作業を効率化したり、工程における無駄な動線を改善したりといったことが可能になるという。 「試作品の完成や、製品の開発完了を待ってから工程設計をしていては、出戻りが発生しやすい。また、工程設計の段階では、金型の発注が終わってしまい、生産現場の声を反映した設計に変えられないといった課題もあった。コンカレントシームレス開発により、こうした課題も解決できる。シミュレーションシステムは、さらに技術を高め、より確度の高い設計、開発を目指している」とした。 さらに、脱炭素化の取り組みでは、松本工場において、毎年3%ずつの省エネ率を高めていく活動とともに、再生エネルギー率100%を目指した取り組みを進めており、カーポートタイプの太陽光発電による省エネ稼働を2024年7月から開始。さらに、2024年2月からオフサイトPPAによる電力供給を開始し、2025年度にはオンサイトPPAを導入する予定も明らかにした。 一方で、「土台づくり」への取り組みとしては、社員1人ひとりが活躍し、いきいき、わくわくする松本工場の実現を目指す活動について紹介。その中核となる「ひと繋がり改善活動」の事例に触れた。 ここでは、「大部屋、小部屋」と呼ぶ仕組みを導入し、現場の困りごとを拾い、全員で課題を解決し、助け合う風土の構築に挑んでいるという。 オフィス内に大部屋を設置し、ガラス張りで外から見えるようにするとともに、社員が誰でも入れるような環境を構築。大部屋に工場内の情報を集めて、誰もが見られるようにしたり、緊急事態の発生や、自然災害による被害によってSCMに影響を及ぼす場合にも、関係者が集まって即断即決ができたりする環境を整えた。 また、IVI、デジタルメーター、工場内物流、面実装といった4つのテーマをもとにした小部屋を設置。小部屋からあがってきた困りごとを、大部屋に吸い上げて議論したり、デジタルWIPにより、課題解決の進捗状況を確認しながら作業を進めたりといったことが行なわれている。さらに、クロスファンクションチームを配置して、製造、生産技術、品質管理、生産管理などの組織が集まった活動も進めている。 さらに、DX道場を2024年度からスタートしている。従業員のITスキルの向上により、自前での仕組み改善、自前アプリの開発によるDX改善を目指しているという。すでに、スマホやロボットを活用したデータ入力、自動運搬などに取り組んでいるとのこと。 ユニークな取り組みのひとつが、安全道場を用意していることだ。 安全道場は、2020年からスタート。工場長をはじめとする幹部、従業員や協力会社の社員も含めて、全員が受講することになっており、松本工場のすべての職場で発生する労働災害の撲滅に向けて、座学だけでなく、疑似体験を通じて災害の原因を身体で理解したり、体感したりすることで危険感受性を高めることを目的にしているという。具体的には、VR体験を通じてドライバーとして事故を起こさないように注意を払う体験や、工場現場で正しい安全行動を行なわないと陥ってしまう危険を察知するために、感電体感や挟まれ体感、巻き込まれ体感など、15種類の体感機を用意している。
Car Watch,大河原克行