米大統領選挙を視野に両国ともに日米同盟深化を狙う首脳会談に:日本は『もしトラ』に備える狙いも
両国ともに米大統領選挙を強く意識
岸田首相は8日、訪米のために出国した。今回は、日本の首相としては9年ぶりの「国賓待遇」となる。9日には米経済界との懇談が計画されている。10日には、ホワイトハウスで歓迎行事を受け、バイデン大統領との首脳会談を行う。11日には米上下両院合同会議で演説を行い、フィリピンのマルコス大統領を交えた初の3か国首脳会談に臨む。12日には南部ノースカロライナ州に建設中のトヨタ自動車の車載用電池工場などを視察する。 まさに盛りだくさんで華やかな日程である。国賓待遇は、外交上は最大級の格式であり、両国関係が極めて重要であることを内外に強くアピールする場となる。 岸田内閣は、政治資金収支報告書への不記載問題で国内情勢が混乱し、支持率が一段と低迷している。訪米は、連日メディアで報じられることから、岸田首相にとっては、外交で支持率を挽回できるチャンスとなる。 他方で、日本政府にとって大きな懸念は、11月の米大統領選挙で共和党のトランプ前大統領が再選されることだ。いわゆる「もしトラ」のリスクである。その場合、他の先進国との協調を軽視する「米国第一主義」のもとで、日米同盟の重要性が低下してしまう恐れがある。その場合には、アジア地域での安全保障面での中国の脅威が高まり、また台湾リスクが高まることにもなりかねない。それは、安全保障面のみならず経済面でも、日本にとって大きな懸念である。 また、岸田政権のもとでの日本の防衛力増強は、バイデン政権には評価されているが、トランプ前大統領が返り咲けば、防衛費のさらなる増額や、在日米軍駐留費の日本側負担の増額が求められる可能性がある。岸田首相としては、「もしトラ」が現実のものとなった場合でも、日米同盟の重要性が低下しないように、布石を打っておくという狙いが、この訪米にあると言えるだろう。 日米同盟の深化は、11月の米大統領選挙での戦略の一環として、バイデン大統領にとっても重要だ。日本を含め安全保障面、経済面での西側諸国との連携強化は、中国封じ込めに有効な手段であることを、この機会に米国民にアピールする狙いがあるのではないか。そして、西側諸国との連携を軽視するトランプ前大統領との対立軸を明確に打ち出すことができるチャンスでもある。 さらに、岸田首相によるトヨタ自動車の建設中の工場視察は、日米連携の強化が、米国に雇用を生み出すことをアピールする機会ともなる。 こうした観点から、11月の米大統領を視野に入れた「日米同盟の深化」が、両国政府にとっての共通のテーマとなる。