綾瀬はるかが、進み続ける理由。「自分で決めてたピークもゴールも、人生の通過点でしかないんです」
俳優・綾瀬はるかさんインタビュー
最新主演映画『ルート29』は、綾瀬はるかさんにとって初めてのことづくし。1か月間旅をしながら撮影をするというロードムービーを通して、「自分軸ってなんだろう」と考えるようになった。それは、自分の奥の奥のほうにある情熱のようなもの。余計なものをそぎ落として見えてきた、強くて優しい生き方に迫ります。 【写真7枚】「その先は考えられなかった」という20代後半を経て、前へと進む熱い思いを聞かせてくれました ◆30代になったら辞めてもいいと思っていました 16歳で俳優としてデビューしてから、途切れることなく出演作が続いてきた20代・30代を振り返り、「ずっとハイペースで走り抜けてきた」と話す綾瀬さん。 「30代を目前にしたころ、大河ドラマ『八重の桜』での主演があり、これが終わったら仕事を辞めてもいいって、本当に思っていました。俳優、スタッフとで連日顔を合わせてチームができあがる空気感。 監督たちが集まって、深夜までずっと議論を続けている熱量。…それを毎日浴び続けて、達成感と幸福感みたいなものを感じ、その先のことは考えられなかったんです。 でも、終わってみればすぐに次の仕事が始まって、また違う人物の人生を生きて。期待されれば応えたくなるし、周囲の意気込みを感じれば、そこに加わりたくなるものです。 そうか、自分で決めてたピークもゴールも、人生の通過点でしかないんだ。志を高くもって愛情あふれる仲間たちとの出会いがあるたび、もっと先へ進みたくなる。30代は、その繰り返しだった気がします」 そんなペースを少しだけゆるめて、1年ほど新たな作品の撮影をお休みしていたことは、案外知られていない。 「新たな撮影以外の仕事はやっていたので、休んでいたという感覚と少し違うんですけどね。でも、1年ぶりに映画の撮影が始まってみれば、『この感覚、久しぶり!』というワクワク感がありました。 それが、やるうちに『こんな感覚、初めてかも!?』になって。それが、映画『ルート29』という作品です」 ◆周囲の意見を聞きすぎて気持ちが揺らぐことも 初めての感覚で臨んだ最新主演映画『ルート29』。これまで綾瀬さんが出演してきた映画とは異なり、今回は姫路と鳥取をつなぐ国道29号線を1か月近く旅しながら製作されたロードムービー。 しかも、演じたのは、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしない女性・のり子(通称トンボ)。ひょんなことから、初対面の少女・ハルとふたり旅をすることになって…。 「私、日常でも、演技をするうえでも、人にちゃんと気持ちを伝えなくちゃ、という思いが先走ることがよくありました。ところが、今回の撮影は『伝えようとしなくていい』というのが監督の要望でした。 無理に伝えようとせず、ただ自分にぼそっと話しかけるように言葉を発する。その場に流れている空気を大事にして、余計なものをそぎ落として、シンプルに。 それは、私にとっては経験してきたことをすべて手放すという作業でした。とても難しいことだけれど、集中できないときは、ひとりになって考える時間も監督は与えてくれました。 すると、自分と違うと感じていた主人公のトンボが、案外かつての自分に近いのかもと思えてきたのです。 そういえば、考えていること・感じたことをうまく人に伝えられなかったり、人から『変わってる』と言われたりしたこともあったな。相手がだれであっても、ふたりきりになると気まずくなったりも、あったあった。確かに私、トンボみたいな感じだったなって。 監督はご自身の中に『撮りたい画』をしっかり持っていて、絶対に曲げない強さもありました。それに応えようともがいているとき、助けになってくれたのが、共演した大沢一菜(かな)ちゃんでした。 私が別の仕事で東京に行って(再びロケに)戻って来たときは、『疲れてない?』『弱音吐いてもいいよ』と声をかけてくれるんです」 果たしてできあがった画面からは、とても静かで幻想的でありながら、そこにいる人々の「強い意志」が伝わってくる。それは、主人公トンボの言動にも内在していて、綾瀬さん自身も、そんなトンボに影響を受けたひとりだ。 「今、周囲には多くの情報があふれて、いろんな価値観が交錯しています。だからこそ、トンボのようにシンプルでまっすぐな人物に触れると、それでいいんだよね、そうだよねって、思えてくるものです。 どんな状況でも、周囲がどう変わっていっても、自分の軸を持って生きているトンボに、私は憧れます。私はというと、周囲の意見を聞きすぎて気持ちが揺らいでしまうことも多くて、自分軸ってなんだろうと、思うこともしばしば。 それでも、迷ったときに人に相談することで、ちょっとずつ自信が持てたりする。緊張していた心が、ふわっと溶けたりする。やっぱり、私はそうやって少しずつ前に進むのが、合っているんだと思います」 人を引き寄せ、その人たちがつい手を差しのべたくなるのが、綾瀬さんという存在。その理由は、本当は奥の奥にちゃんと「自分軸」があるから。周囲に応えようとする熱があるから。それを、ことさら押し出さないのもまた、綾瀬さんの魅力だ。 今のところ、遊びも旅行も計画は仲間にお任せだけれど、次こそは「ひとりで気ままに出かける旅」をしてみたいと、最後に明かしてくれた綾瀬さん。 「気の向くままに出かけて、飽きるまで一日中シュノーケリングするなんて、どうかしら。荷物は最小限に、身軽に。でも、メガネとコンタクトだけはないと生きていけません(笑)」