【祝・沢田研二76歳】「この10曲、コンサートで歌ってほしい」 直訴した記者にジュリーは…
「ライヴで聴きたい10曲」というリスト。私がステージで見たことのなかった曲から選び、紙に書いて持参していたのです。以下の10曲でした。 ●美しい予感(1971年「JULIE II」収録) ●夕映えの海(1973年「JULIE VI ある青春」収録) ●夜の翼(同) ●お前は魔法使い(1974年「JEWEL JULIE 追憶」収録) ●流転(1975年「いくつかの場面」収録) ●ナイフをとれよ(1977年「思いきり気障な人生」収録) ●I Believe in Music(1977年「沢田研二大全集」収録) ●素肌に星を散りばめて」(1982年「A WONDERFUL TIME」収録) ●月の刃(1991年「パノラマ」収録) ●彼方の空へ(2004年「CROQUEMADAME & HOTCAKES」収録) ■好みで言うと…… 沢田さんは、無表情でしばらくリストに見入っていました。「『夜の翼』なんて、ほとんどやってないですねえ」「『美しい予感』『流転』……これもやらないなあ」「『I Believe in Music』はもう照れくさいですね」。個人的にイチ押しの「夕映えの海」には触れず、「『素肌に~』はときどきやったかな」。そんな調子で、ちょっと困惑されているようにも見えました。 歌詞の内容、ほかの曲とのバランスなど、ステージでやらない理由はさまざまでしょう。よせばいいのに、私は無茶な質問を重ねました。 ――どこかのメディアで、ザ・タイガース時代の一番好きな曲は「君だけに愛を」と答えていました。ソロになってからの曲で、一番好きなのは何ですか。 「『君をのせて』とか『あなたへの愛』かなあ。好みで言うと……」
――「君をのせて」は1971年のソロ・デビュー曲。「あなたへの愛」は73年のシングル。近年の公演では、太くのびやかな歌声で、レコードとは一味違うドラマチックな印象を受けます。いつ聴いても素敵な曲ですよね。そう考えると、何度でもステージで聴きたい曲っていうのもありますよね。河島英五さんが書き下ろした「いくつかの場面」とか。 「あの曲は、いくつになっても歌えますからね。河島さんが何をイメージして書いた詞なのか聞いたことはないけれど、僕は『野次と罵声の中で』というくだりで、PYGの日比谷野外音楽堂を思い出す。空き缶を投げられたり、引っ込めと言われたりしたからね。『怒りに顔をひきつらせ去っていったあいつ』では、かつみ(加橋かつみ=元ザ・タイガース)のことを思い出すわけです。河島さんにはありがとうという気持ちです」 ■コンサートで阿久さんの歌ばかりやるとつかれる(笑) ――阿久悠さんの作品としては珍しく、「詞先」でなく「メロ先」で、作曲者の大野克夫さんの才能が最大限発揮されている「あなたに今夜はワインをふりかけ」(1977年)も、毎回、大きく盛り上がります。 「でもね、僕はどっちかというと、安井かずみさんの詞が好き。『ちゃらちゃらしていても、大丈夫よね』って感じで、物事をはっきり言い切らない。ところが阿久さんの詞は強いでしょ。『男は誰でも不幸なサムライ』とか、『女は誰でもスーパースター』とか。歌う立場からすれば、『え、そこまで言い切ります? 僕、困ります』って(笑)。観客や視聴者には『この歌、虚像ですよ、演じているだけですからね』と言いたくなる。それで勢い、海軍の短剣を手にしたり、ハーケンクロイツの腕章をつけたりして、派手に演じるしかなかった。『やっちゃえ、やっちゃえ』と。コンサートで阿久さんの歌ばっかりやるとね、歌う方も聴く方もつかれますよ。どの曲も濃いでしょ(笑)」 (元週刊朝日編集長 佐藤修史) 【後編】<【沢田研二・祝76歳】 終演後の楽屋でジュリーが笑顔で言った一言とは 渋谷公会堂の忘れがたい思い出>に続く。
佐藤修史