高まる国産コーヒー人気、奄美の挑戦 官民一体で商品化、「まるごと焙煎」特許を取得…キーワードは付加価値
国内に流通するコーヒー豆のほとんどを輸入に頼り国産の需要が高まる中、鹿児島県内で奄美群島を中心に栽培が盛んになっている。1980年ごろから始まったとされ、2022年は栽培面積8ヘクタール、果実収穫量約1.6トン(県調べ)。生産者は台風対策など栽培技術を積み上げながら、ブランド確立を目指し模索を続ける。生産国に赴き、消費国との橋渡し役を担う農家も出てきた。 【写真】コーヒーの果実を使った商品を手にする山下さつきさん=和泊町のノアコーヒーおきのえらぶ店
10月上旬、伊仙町面縄の泉延吉さん(76)のコーヒー農園では、コーヒーノキが緑色の実を鈴なりにつけていた。本格的に苗を植えて10年目。今季は1ヘクタールで3000本近く栽培する。「12月ごろには赤く熟して収穫できるよ」。泉さんは目を細めて語った。 奄美群島は赤道を挟む熱帯近くで栽培に適した「コーヒーベルト」に含まれないが、降雨量が多く、年間平均気温20度以上と条件を満たす。一方でコーヒーは強い風や日差しに弱いため、徳之島の農家は山あいで栽培したり、防風用に常緑木センネンボクを植えたりと試行錯誤を重ねてきた。 「台風はしのげるが、日当たりが悪くなった」と泉さん。コーヒーノキを囲っていたセンネンボクが成長しすぎて、農園に陰を落としていた。日照時間が足りず、葉に元気がなくなるという。「栽培は定着しつつあるが、まだ手探り。一つずつ改良していく」 ■ ■ ■ 泉さんが会長を務める「徳之島コーヒー生産者会」は10月、飲料メーカーや同町など官民一体で手がけたコーヒーを初めて商品化した。同島で栽培されて40年余り。産業化への一歩を踏み出した。
生産量増を目指す会のメンバーは60、70代中心と後継者不足が顕著だ。泉さんによると、コーヒーは生産量が安定すれば他の作物より10アール当たりの収量がいいが、それだけで生計を立てるのは現時点で難しい。 現役世代が手を出しにくいため収穫体験会を開くなどし、地元住民に興味を持ってもらう活動に取り組んでいる。泉さんは「出荷までの基礎をつくり、次世代に引き継ぎたい。若者が島に帰ってきた時、コーヒーが農作物の選択肢にあるといい」と前を向く。 ■ ■ ■ 「安心安全なのはもちろん、その上で健康にいい機能性を提供していく」。和泊町和でコーヒーを栽培するノアコーヒー代表の山下さつきさん(53)=霧島市在住=は、国産豆の意義を語る。 08年に県産食材を使ったカフェを同市にオープン。コーヒーだけは入手困難だったため、故郷で作り始めた。熟すと赤くなり「コーヒーチェリー」と呼ばれる果実を丸ごと焙煎(ばいせん)する技法を鹿児島大学と共同で開発。24年に特許を取得した。通常のコーヒー豆より血管機能改善成分を多く含むことが分かっている。
山下さんによると果実はカビが生えやすく、素早く処理しなければならない。海外産は長い時間をかけて日本に運ばれるため、「まるごと焙煎」は新鮮な果実が手に入る国産にしかできない技法だ。「いかに付加価値を高めるか。日本だからできることを見つけ出していかないと」 高い人気を集める国産コーヒー。山下さんは「供給が安定すれば、需要はさらに広がる」とみる。「目標は鹿児島の生産量を日本一にすること。そのために県内一体となって協力し合うべきだ」と強調した。
南日本新聞 | 鹿児島