日銀はインフレ期待を何で測るのか?
中長期の予想物価上昇率(期待インフレ率)は「2%に向けて高まっている途上」
日本銀行は、「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」とし、マイナス金利政策を解除した。 他方で日本銀行は、「基調的な物価上昇率はなお2%を下回っている」、中長期の予想物価上昇率(期待インフレ率)についても、「2%に向けて高まっている途上」と説明している。予想物価上昇率は、実際の物価上昇率の先行指標と位置付けられるが、それさえもまだ2%に達していないということは、2%の物価目標達成はなお不確実だと言える。 しかし、日本銀行が中長期の予想物価上昇率を何で判断しているのかについては、明確にしていない。この点は、金融市場が先行きの金融政策を予想する上での大きな不確実性の一つである。 日本銀行が発表する「短観」の最新調査(2024年3月調査)で、企業(全規模全産業)の5年先の物価見通しの平均値は+2.1%である。また、日本銀行が発表する生活意識調査(2023年12月調査)では、向こう5年間の平均物価上昇率の見通し(中央値)は+5.0%だ。これらは、企業及び家計の中長期の予想物価上昇率が2%に達している、あるいはそれを超えていることを示しているとも言えるだろう。 しかし日本銀行は、中長期の予想物価上昇率はまだ2%に達しておらず、「2%に向けて高まっている途上」としているのである。また、欧米とは異なり、日本の中長期の予想物価上昇率はアンカー(安定)されていないため、今後も低金利を続けることでそれをしっかりと支えていく必要がある、と説明している。
BEIは足もとで上昇も2%にはまだ距離がある
それでは、日本銀行はどの指標を見て、中長期の予想物価上昇率はまだ2%に達していないと判断しているのか。日本銀行は、金融市場の予想物価上昇率に注目しているものと推察される。 物価動向に合わせて元本が変わるインフレ連動債の金利は、実質金利を表しているが、それと通常の国債の名目金利との差から、市場が織り込んでいる物価上昇率の見通し(インフレ期待)を算出することができる。これはBEI(Break-even inflation rate)と呼ばれる。