辺野古移設で焦点の「代執行」とは? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
■20年前にも対立事例
沖縄にある米軍基地のうち、民有地は日本政府が地主と有期の賃貸借契約を結んで借りています。その期限が切れるのを機に、基地使用の契約を結びたくないという地主が現れる問題は、戦後いくどもありました。その場合は「駐留軍用地特別措置法」(特措法)という法律で、市町村長が代わりに土地・物件調書へ代理署名・捺印をすれば国が引き続き収用できると定められていました。 1995年、当時の村山富市首相は間もなく期限切れとなる未契約の所有者に対して使用認定をし、署名を拒否した地主に代わって市長に「代理署名」を求めたものの、那覇・沖縄両市長と読谷村長が拒んだために、特措法の定めで大田昌沖縄県知事に申請しました。 ところが直後に在沖米軍兵士3人による女児暴行事件が発生し、沖縄の反基地感情が爆発しました。大田知事も県議会で代理署名拒否を表明、村山首相との直接会談でもその旨を伝えました。国は知事を相手取り、代理署名(職務執行)を求めて福岡高裁那覇支部に提訴します。結論は県側の敗訴。県は最高裁に上告するも翌年棄却され、敗訴が確定しました。
■国と地方の関係
この代理署名裁判で争点となったのが、当時の地方自治法に定められていた「機関委任事務」です。判決は代理署名を機関委任事務と認め、首長は拒否できないとしました。 機関委任事務とは、自治体が国から請け負わされた業務で、地方に裁量権はなく、国の指揮・監督を受けており、しばしば日本国憲法がうたう「地方自治の本旨」とかけ離れた上下関係の象徴と批判されてきました。 代理署名の裁判中に成立した地方分権推進法で見直しが本格化し、2000年施行の地方分権一括法および地方自治法の改正で廃止が決まりました。国と地方は「上下」から「対等」な関係へと考え方が改まったのです。代わりに登場したのが「法定受託事務」と「自治事務」。自治事務は自治体固有の仕事で国が代執行することはできません。法定受託事務はこれまで述べてきた通り、国の関与が認められている半面、機関委任事務に逆戻りしないよう地方も対等に責任を負うという趣旨になっています。