モノ言う株主・丸木氏が語る「日本企業の経営問題」 見過ごされる「ガバナンスウォッシュ」とは
また通常業務にも影響を及ぼしかねません。例えば、取引関係の維持を株式の持ち合いに頼るようになると、製品やサービスの質を向上させようというインセンティブが働きにくくなります。 逆に株を持ち合っていないことを理由に取引を断られたり、株を保有していることで取引という利益が得られたりすることがあるとすれば、これは株主への利益供与を禁じた会社法に抵触する可能性すらあります。 私はずっと問い続けているのですが、株式保有と取引との因果関係、つまり「株を保有していると、なぜ取引が維持でき、円滑になるのか」について合理的な説明を聞いたことがありません。
株を保有していなくても、製品やサービスの質が良ければ取引してもらえるはずですし、将来の協業をめざして業務提携もできるはずです。 だとすれば、なぜ株を持ち合うのか。安定株主として常に経営者の味方をすることを条件に取引させてもらっているという理由以外、まったく思いつかないのです。 だから我々は、投資先企業が政策保有株を持っている場合には、「すべて売却してください」と提案するのが常です。しかし、そう簡単には売れないというのが最初の反応です。やはり先方との関係が崩れ、円滑な取引ができなくなることを懸念されているようです。
これは現実にあった話ですが、政策保有株式の売却を要請した際、投資先企業の代表取締役から、「売却すると、株式発行企業との取引が縮小して売り上げが減りますよ。株主としてそれでよいのですか」と言われたことがあります。 そのとき、私はこう返しました。 「筆頭株主を脅すのですか。かまいません。株式を保有しているから取引できるというのは不健全だし、株式を持たないと取引しないなどという取引先はコンプライアンス上問題があるのだから、取引しないほうがよいです。
政策保有株式を売却するという正しいことをして売り上げが減るなら仕方がない。それより、当社が株式を保有しているからとの理由ではなく、他社より優れた製品やサービスを提供できるとの理由で、顧客から選ばれるように努力してもらいたい」 ■大手損保のカルテルの背景にあるもの 2023年末には、大手損害保険会社4社が企業向け保険契約時にカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会による立入検査を受けるという事案がありました。実はこの背景にあるのも、政策保有株だったようです。