社長は11ヶ月勾留、顧問は保釈されずに病死、裁判で“違法”とされた捜査…大川原化工機「冤罪事件」の深い闇
生物兵器に転用できる機械を不正輸出したとして外為法違反で逮捕、起訴され、のちに社長らの起訴が取り消された「大川原化工機(おおかわらかこうき)」の冤罪事件が世間を震撼させている。 【映像】“生物兵器に転用可能”とされた「噴霧乾燥機」
警視庁公安部に逮捕された大川原化工機の社長ら3人の勾留は11ヶ月にも及んだ。元顧問は勾留中に胃がんが発覚したが、適切な治療が受けられず、自身の潔白が証明される前に亡くなってしまった。 違法捜査で逮捕、起訴されたとして、社長らが国と都を相手に損害賠償請求をした裁判では、捜査員が「捏造ですね」と証言するなど異例な展開に。2023年12月、裁判所は約1億6千万円の賠償を国と都に命じたが、国と都は判決を不服として控訴、社長らも控訴した。 法廷で捜査員が異例の証言をした“冤罪”事件、その背景に一体何があったのか。改めて事件をおさらいする。
事件の舞台となったのは、神奈川県横浜市に本社を構える大川原化工機。液体を粉末に加工する「噴霧乾燥機」の国内トップシェアを誇る企業だ。執行役員の初沢悟氏によると、液体原料を霧状に噴霧し、熱をかけ粉にする技術で、もともと牛乳を粉ミルクにする用途で開発され、漢方薬やインスタントラーメンの粉スープなどにも用いられるという。 しかし2020年3月、「生物兵器に転用可能な殺菌機能がある」として、大川原正明社長を含む幹部3人が逮捕された。中国やロシア、北朝鮮などに武器や軍事転用可能な技術を輸出するには、経済産業大臣の許可が必要(外国為替および外国貿易法)なことが理由とされた。 「手錠をかけられた状態で外に連れ出され、その時には報道がたくさん目の前にいる状況。我々自身は非常に不審な顔をしている。いかにも悪い顔をしている」(大川原社長) その10カ月後、公判に向けた従業員らの実験で、殺菌機能がないことが判明する。 「こちらは初めから、いろんな意味で(殺菌は)できないよと話をしている。中国が力を持って、米中関係の力の均衡が近づいた。それを日本の政権が慮ったのか、公安が察知して、一生懸命お膳立てしたのでは。たまたまターゲットになった」(大川原社長) 大川原社長ら3人は2021年2月に保釈され、11カ月ぶりに身柄拘束から解放された。そして7月、初公判を4日前に控えたタイミングで、東京地検は起訴を取り消すという異例の判断をし、東京地裁は不当な身柄拘束への刑事補償として、国に1130万円の支払いを命じた。和田倉角法律事務所の高田剛弁護士は、これは最低限の補償額だと説明する。