野性味あるイワナ育て 県内初、利賀で「発眼卵」放流
●庄川・利賀漁協共同で 南砺市利賀地区を流れる百瀬川(ももせがわ)の支流で7日、天然イワナと遜色のない成魚を増やそうと、受精後に魚の目が見える状態になった「発眼卵(はつがんらん)」2万粒の放流が行われた。ふ化前の発眼卵の放流は富山県内では初めて。姿形が美しく、俊敏で野性味たっぷりのイワナが育つメリットがあり、県内外から釣り客を強く引き付ける魅力となりそうだ。 ●養殖より引き強く美しい 発眼卵の放流を提案した庄川沿岸漁業協同組合連合会の田子泰彦常務理事は「味は天然魚と変わらず、釣られる時の引きも強い。何より美しさがいい」と話す。 発眼卵の放流は、漁業権を持つ同組合連合会と利賀村漁業協同組合が共同で実施した。放流の適地として選んだのは天然のイワナが産卵するような渓流で、組合役員ら9人が約1・5メートルの積雪をかきわけて川に下り、計12カ所に約1700粒ずつ放した。 水の流れが穏やかな場所を選んだ役員は、底を浅く掘って卵が流出しにくいくぼみをつくり、筒状の器具を使って水底に卵を沈めた。イワナのメスが産卵後に尾を動かすように手を動かし、上に小石をかぶせた。 昨年春まで県水産研究所長を務めた田子常務理事によると、発眼卵のイワナは養殖魚と比べ、本能が引き出され、生き抜く力が強い。ふ化直後から自然環境に順応するためとみられ、顔つきや体形も天然魚と変わりがない。 大雨による出水時には流れが穏やかな場所を見つけてとどまることができ、養殖魚のように流されにくいという。 両漁協役員は昨年11~12月、岐阜県飛騨市の高原川漁協を訪れ、発眼卵放流の方法を学んだ。養殖したイワナの稚魚や成魚の放流と比べ、費用を抑えて多くの卵を放流できる利点があり、天然イワナの卵のふ化時期に合わせて放流した。利賀地区の養殖業者が昨年11月下旬に受精させ、発眼まで育てた卵を提供した。 卵は2月にはふ化し、稚魚は川底にとどまったまま過ごし、雪解けが始まる頃から泳ぎ始める。3年程度で体長約25センチの成魚になり、メスは産卵する。 今回の放流は利賀で「特色のある漁場づくり」を進める一環。利賀漁協からは上田英夫組合長や谷戸守副組合長らが参加した。木彫工芸家でもある谷戸さんは「美しい『利賀のイワナ』として人気になるとうれしい」と語った。 ★発眼卵放流 受精卵の細胞が分裂して黒い眼ができるまで成長した卵。稚魚はふ化直後から自然の中で育つことから環境に順応しやすい。一方、養殖場でふ化する魚は水流が緩やかな池で、集団で育つ。餌として配合飼料を与えられるため天然魚とは異なる姿になり、自然に放流されると環境になじみにくいとされる。