患者が知らない「がん見落とし」の実態…必ず早期発見するための「がん検診」の正しい受け方
「がんの見落とし」
いま医療界を揺るがしているのが「がんの見落とし」だ。1月には、食道がんで亡くなった男性の遺族が「検査結果を医師が見落とした」として県立静岡がんセンターを訴えていた裁判で、約5600万円の賠償を命じる判決が下った。一説には、がん検診を受けても4割のがんが見落とされているとも言われる。 【写真】健康診断、血圧より見ないとマズい「項目」の名前 つまり、がん検診は「ただ受ければ安心」というものではないのだ。たとえば、いちばん死者数の多い肺がんは、X線画像診断だけでは見落とされることがある。内科医の近藤慎太郎氏が言う。 「肺がんには、気管支とつながっている肺の中心『肺門部』のがんと、肺の端のほう『肺野部』のがんがあります。肺野部のがんはX線で見やすく見つかりやすいのですが、肺門部のがんは、ほかの臓器と重なって見えづらい。そのうえ悪性度が高く、生存率も低いのです」 肺がん検診は、タバコを吸わない人なら胸部X線検査だけで済ませることが多い。ところが、近年では喫煙歴がないのに肺がんになる人も増えている。見落としを防ぐには、あわせて喀痰細胞診を受けるのが安心だ。 「喀痰細胞診とは、痰の中にがん細胞が含まれていないかを調べる方法です。がん細胞が痰に混じりやすい肺門部がんを見つけるには、非常に有効な検査といえます。さらに万全を期するなら、胸部CT検査を受けるのもいいでしょう」(近藤氏) なお、喀痰細胞診は1500円ほどで受けられるが、CT検査は1万5000円ほどかかる病院が多いので注意しよう。
より良い病院の選び方
肺がんに次いで死者数が多い大腸がんや胃がんについても、バリウムを使ったX線検査だけを行って済ませることが少なくないが、なるべく大腸カメラ・胃カメラ検査を受けたほうがいい。 「内臓には、中が空っぽの管状になっている胃・腸などの『管腔臓器』と、肝臓や腎臓、膵臓のように中身が詰まっている『実質臓器』があります。前者には内視鏡を使って直接見る検査が、後者にはX線・CT・MRIといった画像で見る検査が向いているのです。 気をつけてほしいのは、病院の選び方。内視鏡検査は、医師によって巧拙があるのが現実です。とくに、口から入れる胃カメラしかやっていない病院と、鼻から入れる胃カメラもやっている病院では、後者のほうが技術力が高い傾向があります。 自治体のがん検診でも、検査を受ける病院は自分で選べますし、すべての検診を同じ病院で受ける必要はありません。胃カメラはここ、肺がんはここ、というふうに、評判の高い病院や専門医のいる病院を使い分けるのも手です」(近藤氏) 鼻から入れる経鼻内視鏡検査では、口からの胃カメラでは見落としやすい食道がんや咽頭がんを見つけられるメリットもあると覚えておこう。 がんの中でも、とりわけ発見が遅れやすいのが、自覚症状が少なく体の奥のほうにある膵臓や肝臓のがんだ。自治体のがん検診メニューにも含まれていないため、人間ドックで血液検査を受けるのが一般的だが、確実に見つけるためには腹部エコー検査がおすすめだ。 「腹部エコーはおなかの表面に機械をあてるだけなので、痛みなどはまったくありませんし、CTのように被ばくもしません。しかも、肝臓、胆嚢、腎臓、膵臓といくつもの臓器を同時にチェックすることができる。人間ドックを受けるなら、ぜひメニューに加えてほしい検査の筆頭です」(近藤氏) ただし、注意点もある。肥満の人が腹部エコー検査を受ける場合は、脂肪がじゃまをして、膵臓まで超音波が届かずにボヤけた画像しか見えないことがあるのだ。自覚があるなら、MRI検査も受けておくのが無難だろう。