「飛ばない」が生み出す新たな思考。新基準バット導入で大会本塁打はわずか3本も… 指導者、球児に見えたスウィングへの探求心【センバツ総括】
「今大会を通して自分の中でも木製を使っていて、ヒットを打てたりしているんですけど、まだまだ少ないと思います。最後の打席は反応で打てた。いい反応ができたバッティングだったかなと思います。夏、またここへきて、それこそ、ホームランを打てるような練習をして戻ってきたい」 吉川は敗戦の涙に暮れていた中で言葉を絞り出した。 彼にはまだまだ高い目標があり、今大会の活躍だけでは満足できない矜持があるのだろう。だからこそ、木製バット使用であり、打撃への追求だったに違いない。 今大会は遊撃手に可能性を感じる選手が多かった。吉川もそうだったし、中央学院の颯佐心汰は運動能力に溢れ、健大高崎の田中陽翔も堅実だった。 これまでの日本のトップの遊撃手はメジャーリーグなどの世界へ行くと厳しい現実に晒されてきた。アジアだけでみても、パドレスのキム・ハソンのような世界で戦える大型のショートストップは生み出せていないという現実はある。 しかし、今大会、新基準バットや木製バットに苦しみながらも、スウィングを探求している高校球児の姿を見ると、前途は明るいような気がした。「スウィングをただ速くすればいい」という思考停止状態から野球界全体が変わるきっかけになる。 今大会は投手を中心とした守備が光った大会だったが、一方で、そんな将来への楽しみを感じた大会でもあった。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。