シリア少数派に募る不安…アサド氏出身宗派やキリスト教徒、「穏健」暫定政権に警戒感「権利守られるのか」
アサド政権が崩壊したシリアで多数を占めるイスラム教スンニ派の旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS)が主導する暫定政権に対し、少数派が不安を募らせている。前政権の中枢を担ったイスラム教アラウィ派の住民が多く住む北西部タルトゥースなどでは、「少数派の権利は尊重されるのか」と懸念の声が上がっていた。(シリア北西部タルトゥース 田尾茂樹、写真も)
豊かな緑が目立つ地中海沿岸のタルトゥース。アサド政権の強固な支持基盤とされてきたこともあり、街に戦闘の跡は見られない。
目に付くのは、旧反体制派が使ってきた旗にちなみ、緑、白、黒の3色に三つの星をあしらったデザインだ。首都ダマスカスなどと同様に治安維持はHTS戦闘員が担い、バッシャール・アサド前大統領の写真は至る所で引き裂かれていた。
「本心でアサドを支持していた市民はいなかった。そう装うしかなかった」。アラウィ派の公務員アラム・ハサンさん(37)は明かす。内戦でいとこを亡くしたという。反体制デモが始まった2011年当時のアサド氏の対応を振り返り、「すぐ辞めれば、これほど多くの犠牲は出なかった」と憤る。一方で「新しい政権は私たちを守ってくれるのだろうか」と不安を漏らした。
シリアには多数の宗教・宗派が混在し、10%余にすぎないアラウィ派出身のアサド氏は、父の代から権力中枢を同じ宗派で固める一方、強権支配で国家の一体性を保ってきた。政権の恩恵を受けたのは一部の取り巻きだけだったが、ハサンさんを含め、今後アラウィ派に敵意が向けられる可能性を恐れる人は多い。
イスラム過激派と呼ばれてきたHTSは穏健姿勢をアピールし、国内のすべての宗教・宗派を尊重すると強調している。だが、大学生アマル・シャールさん(21)は「今だけのポーズではないのか」といぶかしがった。
少数派のキリスト教徒が多いタルトゥース近郊の街サフィタでも懸念の声が上がる。
シリア国内では政権崩壊後、キリスト教会が何者かに襲撃される事件が報じられている。HTS指導者アフマド・アッシャラア氏がかつて、過激派組織「イラクのアル・カーイダ」に参加していたこともあり、飲食店店員ジョニー・サシンさん(28)は「過激主義が広がり、我々も攻撃されないか心配だ」と話す。