「インディーズバンドで立つ」音源配信なしでTETORAがつかんだ武道館ワンマンへの道
◇「やっぱり一番がいい」秘密を共有するアルバム 最新アルバム『13ヶ月』。このアルバムは「1曲だけ、30秒だけ認知される曲が定番になってきた最近の音楽事情のなかで、アルバム収録曲を全部ちゃんと聴いてもらいたい。そのうえで、名盤って言われるものをつくりたい」という思いから制作された。 「ある打ち上げで、バンドの先輩が“〇〇のアルバムがいい”と言っていて。そのとき、私たちは“あの曲が好きだ”と言っていることに気がつきました。私はアルバムを制作する側の人間なので、本当であれば“あのアルバムがいい”“これは名盤だ”と言われるようなものを作りたい。そう思って『13ヶ月』を制作しました」 配信が主流となる現在において、アルバムを聴くという文化は忘れ去られているようにも思える。そのため“アルバムとして向き合って聴く”という体験をするために作られた本作には、全曲を聴いてもらうため、さまざまな工夫が施されている。その一つが曲名だ。この曲は『7月』『8月』などの12ヶ月が曲名として使われている。 「リスナーの方に全曲を聴いてもらうため、全曲ラブソングで作ってみる、または生き様を描く、など考えたんです。そのなかで、1月から12月までの曲を書くというアイデアが生まれました。みんなそれぞれ、その月の記憶はあるし、全曲をまんべんなく聴いてくれるのではないかと思ったんです。 曲を書く際には、今までのメモを見て書きました。というのも、私、中学生の頃からメモを常に取っているんです。それを見れば、その時期に何を考えていたのか、すべて書いてあるんです。そのメモを見ながら歌詞を書きました」 すでにCDを手にしているリスナーであるならおわかりかもしれないが、この作品には購入者にしかわからない仕掛けが施されている。 「私なりの遊び心というか、ああいうのが好きなだけ」と上野は語ったが、リスナーにとっての特別な存在になりたい、というTETORAらしい秘密の共有のように感じた。しかしながら、なぜTETORAはここまでして、リスナーに寄り添い名盤を作ることにこだわるのか? 「やっぱり一番がいいじゃないですか! 二番とか三番とかイヤだ。“好きなバンドは?”と質問されて、“TETORA!”と言われるようなバンドでありたいし、流行りじゃなくてリスナーたちの心にいつまでも残るようなバンドになりたい。恋人に“あの子も好きやなぁ”とか言われるのってイヤじゃないですか(笑)。それと一緒なのかもしれないです」 ◇アリーナでもライブハウスでもやることは変わらない リスナーにとって一番の存在であり続けたい、その思いが彼女たちの原動力でもある。そんなTETORAは、今年の8月12日に日本武道館でのワンマンライブも控えている。現在の心境について聞いた。 「“見に行くよ”と言ってくれる人が、日に日に増えてきていて。責任感みたいなのは、ひしひしと感じていますが、武道館でライブをするという実感は……まだないです。ただ、大きなアリーナでも、小さなライブハウスでもやることは変わらない。 確かに裏方の数が多いとか、特典が付いてくるとか、そういう部分は変わりますが、ステージ上でやることやライブに対しての心構えは何も変わらない。今までやってきたカッコいいことをやるだけです」 インディーズバンドとして武道館に立つことを夢見ていたTETORA。なぜ彼女たちはこだわったのであろうか? 「他の人と違うことがしたくて、その延長線上にインディーズでの武道館ワンマンもあったんです。私の知っているバンドは、メジャーに行ってから武道館ワンマンをやっていた。だから、インディーズでそれをやればカッコいいなって。 仮に私たちがメジャーへ行くなら、インディーズでやりたかったことは全てやってから行きたい。武道館は、そのやりたいことの一つでした。あとは……TETORAのために、これまで制作を手伝ってくれたスタッフや社長に対しても恩返しにもなるのかなと、こっそり思っています」 純粋に自分たちが思う「カッコいい」へと突き進むTETORA。武道館公演、それは本人たちが思う以上、偉大な一歩であるように思える。なぜなら、インディーズで活動するバンドにとって、メジャーへ行かずとも武道館に立てる、という夢を見せてくれるからだ。 将来はまだわからないと上野も語っていたが、TETORAのようなバンドの在り方は、少なからずインディーズバンドのお手本の一つになると思える。そういう意味では、彼女たちの存在は「インディーズの希望」だと言えるのかもしれない。 (取材:マーガレット安井)
NewsCrunch編集部