平等院鳳凰堂で金メッキされたナゾの鉄製金具、伝統手法では不可能な技…カギは「道具に残る銅」か
国宝の平等院鳳凰堂(京都府宇治市)で4年前、鍍金(ときん)(金メッキ)された謎の鉄製金具が見つかった。伝統的な手法では、鉄に鍍金できないとされていた。失われた昔の技術(ロストテクノロジー)を復元する研究が、文化財の専門家と科学者の協力で進んでいる。 【写真】再現に成功した金メッキを施した金具
銅への鍍金は平安時代に行われていたが、同じ手法で鉄に鍍金すると腐食する。鳳凰堂は極楽浄土を再現するため極彩色と金で埋めたと伝わるが、儀式の時に布をつり下げたとされる堂内の金具(長さ19センチ)は鉄製だった。神居文彰(かみいもんしょう)住職(62)は「鉄が使われていることが不思議だった」と話す。
堂の修繕が行われた2020年、神居さんが金具に付着した金色の破片を見つけた。東京文化財研究所の分析で、金が装飾に使われた可能性が高いと判明した。
平等院の依頼で京都国立博物館が研究に加わり、鍍金などの新調や修復を行う京都社寺錺漆(ほうしつ)(京都府宇治市)代表取締役の治村嘉史(じむらよしふみ)さん(57)が再現を試みた。
銅に鍍金する時は銅を梅酢で洗い、表面に水銀を延ばして金を押し込むように載せてから、熱して水銀を飛ばす。治村さんは鉄に銅メッキしてから鍍金する手法を試したが、数日で鉄さびが現れてしまった。
鍍金の道具を新調し、梅酢の濃度や焼きの温度を変えるなど工夫したが失敗した。試しに使いこんだ道具を使うと、金が載った。治村さんは「道具にわずかに残る銅が重要な役割を果たすのでは」と推察する。
鉄の鍍金技術を復活させるため、今年から京都市産業技術研究所も加わり、鉄の表面構造と鍍金の関係を調べる本格的な解析が始まった。耐久性が高い鍍金の仕組みがわかれば、治村さんが再現に挑む予定だ。
共同研究に参加する日鉄テクノロジー文化財調査・研究室(兵庫県尼崎市)の渡辺緩子(ひろこ)室長(58)は、「分析機器がない時代に、鉄に鍍金した職人の観察眼と技術に驚く。少しでも当時の技に迫りたい」と話している。
◆平等院鳳凰堂=平安時代、藤原道長の長男・頼通(よりみち)が1053年に建立した。金色に輝く「阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)」を本尊とする仏堂で、藤原氏による摂関政治の全盛期を伝える。1951年国宝に指定。94年、古都京都の文化財として平等院が世界遺産に登録された。