中村雅俊、高度経済成長期は青春真っ只中だった 朝ドラでおじいちゃん好演
歌手としての中村雅俊
そんな中村だが、俳優業のみならず歌い手としても有名だ。前述の「ふれあい」をはじめ「恋人も濡れる街角」などいまでも多くの人に愛唱されるヒット曲を持っている。そのひとつに「想い出のクリフサイド・ホテル」という曲がある。筆者は90年代、カメラマンとして駆け出しのころ横浜は元町の「クリフサイド」というダンスホールを撮影する機会があった。 戦後まもない1946(昭和21)年に「山手舞踏場」として開店した伝説の名店で、なんとなく歌詞に符号する点を感じ、曲のモデルはここでは?、と思った。ただ、クロークも待合室もホテルの風情なのだが、実際にはダンスホールであってホテルではない。長年の疑問を中村にぶつけると、嬉しそうに「そうですよ! 横浜のクリフサイドをモデルにしたとレコーディング当時、作詞の売野雅勇さんが言ってました」と即答が返ってきた。後に売野氏とも知り合い聞いてみたところ、クリフサイドという言葉の響きも好きだが、学生のころ先輩たちの会話に出てくるのを聞いて、大人の世界の匂いに興奮していたのだとか。 青春スターだった中村雅俊は、大人の世界を歌う大人の男になり、そしていま、孫たちを溺愛する優しくかわいいおじいちゃんを演じることができる年齢になった。中村には実際に、10歳になる孫がいて、孫を溺愛するおじいちゃん役は自然にできているようだ。歳をとることは悪いことではなく、むしろ人間としての幅が広がって、それはとても楽しいことなのだと、中村演じる仙吉じいちゃんは教えてくれる。 (文・写真:志和浩司)