第100回箱根駅伝もナイキのシューズだらけか!? 選手たちのランニングフォームに画期的変化を起こした厚底革命の勝利のゆくえ
シューズでわかるウガンダと中国の結びつき
いちばん驚いたのは、日本薬科大のノア・キプリモ(2023年から戸上電機所属)が「Li‐NING」のFeidian 3・0 Ultraというシューズを履いていたことだ。 これは中国のメーカーで、1984年のロサンゼルス・オリンピック体操競技の金メダリスト李寧(英語表記ではLi Ning)が立ち上げたメーカーだ。 日本ではこのシューズを履いている人、あるいはLi‐NINGのアパレルを着ている人はほとんど見ないが、推測するにウガンダ生まれのキプリモは、おそらくは母国の「誰か」からの要請によってLi‐NINGのシューズを履いたのではないか。 中国とウガンダは政治、経済で密接に結びついている。2023年6月にはウガンダの学校でテロ組織が襲撃事件を起こし、多数の死傷者が出たが、中国の習近平国家主席は、ウガンダのヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領に見舞いのメッセージをおくっている。 さらに経済では、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が、第5世代移動通信システム(5G)技術を導入したデジタルセメント工場建設プロジェクトを進めることを発表した。シューズメーカーとて例外ではない。 ウガンダの人口は右肩上がりで、2021年の統計によると4500万人を超えた。その10年前は3300万人あまりだったことを考えると、ものすごい勢いで人口が増えている。 ウガンダの人たちにあまねくシューズが行き渡るようになったら……。 大きな市場が誕生する。Li‐NINGはウガンダの選手たちにシューズをアピールし、そしてそれがめぐりめぐって箱根駅伝の予選会にたどりついた。これには、私も驚かされた。
「シューズの使い分けが出来るようになってきました」駒澤・大八木元監督
ナイキの寡占状態が続いているわけだが、今後は他社もじわりと差を縮めてくるとは思う。 かくいう私も、厚底シューズを購入した。アシックスの「メタスピードエッジ」である。スピード練習用に使うと良いとアドバイスをもらっていたので、500m×3本の練習で使ってみると、どんどんスピードが出る。本当に驚いた。 次のスピード練習は一週間後に400mの上り、下りの坂を使ってのもの。下りに入った瞬間、これまで体験したことのないスピードが出て、「これはタイムが出るわけだ」と感心してしまった。 ただし、翌日になってこれまでに痛みが出たことがない箇所に痛みが出た。これも噂通りである。膝の上から股関節にかけての部分だった。これまで使ったことのない箇所で、新鮮な痛みではあるが、ちょっと怖い気もした。 2020年前後まで、各大学の選手たちから仙骨、股関節、大腿骨といった、これまでの故障箇所とは違う部位のケガの話を聞くようになっていた。 それまでは膝下のケガ、シンスプリントや疲労骨折はよく聞いていたのだが、ケガの部位が上がっていった感じなのである。厚底シューズは、選手たちにこれまでとは違う走り方を要求していたのだ。 しかし、2022年頃になってくると、ケガの話を聞くことは以前と比べれば少なくなった。 大八木監督は「シューズの使い分けが出来るようになってきました」と話す。 長い距離を走る時にはナイキ・ペガサスのような薄めのシューズを履く。そしてスピード系の練習、あるいは試合が近づいてきたら、厚底を履くというスタイルが確立してきたという。 これからは、中学時代から厚底シューズを履いてきた世代が登場してくる。おそらく、ランニングフォームはシューズに最適化しているだろう。この世代は、5000mで12分台、10000mで26分台にどんどん突入していくはずだ。 おそらく、彼らはずっとナイキに親しんできた世代。 自分が中学、高校時代にこだわったブランドは生涯にわたって影響力を持つから(私の場合、アイビーファッションのブランドとか)、今後もナイキの優位は、よっぽどの革命が起きないと動かないだろう。 文/生島 淳 写真/Shutterstock ---------- 生島淳(いくしま じゅん) 1967年生まれ、宮城県気仙沼市出身。早稲田大学卒業後、広告代理店に勤務しながらライターとして活動し、99年にスポーツライターとして独立。ラグビー、野球、駅伝などを中心に圧倒的な取材力で世界のスポーツに精通している。雑誌への執筆の他、テレビ、ラジオも出演多数。著書に『駅伝がマラソンをダメにした』『箱根駅伝 ナイン・ストーリーズ』『奇跡のチーム ラグビー日本代表、南アフリカに勝つ』『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」』など。 ----------