基地汚染の度に「通報遅れ」が繰り返される理由とは…日米協定に仕込まれた、基地に立ち入り調査させない「抜け道」
汚染の実態を解明する方法はある!
いずれにしても、基地に張り巡らされたフェンスの内側に立ち入るには厚い壁が立ちはだかる。ただ、米側の強い抵抗が予想される日米地位協定や環境補足協定の改定を待たずとも、汚染実態の解明につなげる道がないわけではない。 ひとつは、アメリカがみずから設けたルールを守らせることだ。「米国外における環境汚染の改善」について定めた米国防総省の訓令4715.08号は、 ・受け入れ国(日本)に米側が協力する ・米側が原因物質の除去などをする などと定めている。しかも、「汚染が米軍に起因するかどうか明確でない場合も対象」とされている。 ただ、汚染の除去はおろか、過去の漏出の責任さえ米軍に認めさせられていないことを考えると、外務省や防衛省が正面切って交渉の切り札に使っているとは思えない。 それでも、もう一つ可能性がある。水質汚濁防止法を使うことだ、と政府関係者は言う。 環境省は2年前、国内で泡消火剤の漏出事故が続いたことを受けて、PFOSとPFOAを同法の指定物質に加え、工場などから漏出した場合は都道府県知事に届け出ることを義務づけた。そのうえで、都道府県知事は状況確認などのために立ち入りを求めることもできるようになった。また、消防施設にも同じように対処するよう求めている。 日米地位協定16条に、米軍は「日本の法令を尊重する」と書かれていることを考えれば、水質汚濁防止法を盾に迫れるのではないか、というのだ。 しかも、米軍はアメリカ本土では、汚染の調査や浄化を義務づけたスーパーファンド法にもとづいて、基地やその周辺の汚染除去にすでに取り組んでいる。
手段はあっても政治が本気で動かなければ……
日本側が米軍基地の内側へ入れないのは、外務省・防衛省だけでなく、政治家が本気で動こうとしないからだろう。 「横田基地からのPFAS漏出」の一報を受けた翌日、東京都は周辺自治体とともに、詳細な情報の提供や公共用水域での調査と結果の公表などを防衛省に口頭で求めた。関係者によると、米軍が初めて漏出を認めただけに、周辺自治体側からは「口頭要請」ではなく、正式に「文書要請」すべきとの声が上がったものの退けられたという。 記者会見に臨んだ小池百合子都知事は、 「国の責任における調査のほか、必要に応じた立入調査への要請を行っております」 と答え、これまで通り国にボールを預けてみせた。 口頭要請を受けて、防衛省は「米軍施設・区域への立入りを含む今後の対応について、地元の皆様とよく相談してまいります」としている。 日米のダブルスタンダードを許し、汚染者責任の追及を阻んでいるのは誰なのか。 スローニュースでは、横田基地からPFOSを含んだ大量の汚染水が漏出したことを米軍が初めて認め、多摩川へ流出したとみられる状況について、詳しく伝えている。
諸永裕司