東大元教授・90歳現役医師「高齢者診療で最初にやることは減薬」 家族に説明が難しい多剤処方
そのため、高齢者の診療では、できれば主治医を一人定め、すべての医療機関でどのような治療を受け、どのような薬を処方されているか、一括して把握しておけることが理想といえよう。 もう一つ、高齢者に注意が必要なこととして、一般的な成人と高齢者では、薬の作用の仕方が異なることが挙げられる。さらに、個人差も大きく、薬の効き方や副作用の現れ方も人によってさまざまだ。前述のように、高齢者は複数の病気を持っていて、処方されている薬の種類も多い。 加えて、高齢者ゆえ、薬の服用方法や服用する量を間違えてしまうことも少なくない。そう考えると、薬に関しては、高齢者の特性と、薬剤について十分な知識を持つ医師がしっかり管理すること。その上で、できるだけ服用する薬の種類と量を減らすことが大切なのだ。 私は高齢者が入所する際、最初に服薬状況を確認し、多すぎる場合は、減らすように指示している。一人ひとりに対してどういう判断でどの薬を減らすのかを考える。 口で言うのは簡単だが、実際に行うのは難しい。日本人は薬が好きで、薬を飲むことでどこか安心しているところもある。また、本人はよくても、入所者の家族から「なぜ薬を減らしたんだ。病気が悪化したらどうするんだ」と問われることもあり、家族に対する説明もきちんとしなければならない。日本の高齢者の多剤処方は、難しい問題なのだ。
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋 ≪著者プロフィール≫ 折茂肇(おりも・はじめ) 公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
折茂肇