小出恵介「やっと息ができた」自粛を経て気づいた居場所
明石家さんまさんの助言
――渡米後は孤独でしたか? 小出恵介さん:縁もゆかりもない土地ですし、ずっと孤独ですね。それは自分が選んだことですから納得はしています。そんな僕を心配して連絡をくれる方もいて、再起への励みになりました。その中でも明石家さんまさんは一番温かい手を差し伸べてくれたんです。さんまさんがプロデュースしたドラマを降板したとき直接謝罪したのですが、逆に僕を励ましてくれて…、電話口で号泣しました。アメリカに行くという際にも相談したのですが、さんまさんが「ええやないか」と応援してくれ、僕の挑戦を誰よりも喜んでくれました。 一時期、役者を続けるかどうか悩んだときも、「そりゃ絶対(役者を)やるべきや。おまえはおまえの人生、おまえがやりたいことをやらなきゃいけない。それを邪魔したり否定するのは、他人はできないし、しちゃいけない。(やめるとか)そんなことまで思う必要はない」と珍しく強い口調で諭されました。そんな言葉をかけていただいて、ニューヨークでは映画や舞台のオーディションを積極的に受けるようにしています。コロナ禍の影響もあり、せっかく受かった仕事が延期になったり、思いどおりにはいきませんが、挑戦し続けることが大切だと自分に言い聞かせています。現在は、日本とアメリカを往復しながら活動しています。
演技で気づいた「自分の居場所」
――そんななか今年春公開の映画『女たち』に医師役で出演されました。3年7カ月ぶりの日本映画でしたね。 小出恵介さん:新しい事務所への所属が決まり、ちょうど日本へ一時帰国しているときに、映画プロデューサーの奥山和由さんが新作を製作するという話を聞いて直談判しに行ったんです。撮影現場を見に行きたいとお話しするうちに、「通行人でもいいから出演させてもらえませんか」と頭を下げました。渇望していたというか、映画の世界の空気を吸いたいという感情が湧き上がってきてのことです。大げさと思われるかもしれませんが、実際に現場に行ったとき、「やっと息ができる」という感覚をおぼえたんです。得も言えない息苦しさのなか、3年4年たって、やっと一息ついた、やっと呼吸が深くできる。頭で考えてとかじゃなくて、体全体が「自分の居場所」というふうに反応しているみたいで。自分でも意外だったんですけど、体は正直というか、自分は演じる場所を必要としているんだなあと思いましたし、同時にやるべきことを再確認できましたね。 ――それから今回は、ABEMAドラマ『酒癖50』の主演に抜てきされました。 小出恵介さん:以前映画でご一緒したことがある脚本家の鈴木おさむさんから提案いただいたんですけど、酒癖の悪い人を矯正するという役柄で、最初聞いた時、正直冗談なのかなと(笑)。どう受け取っていいのかわからなかったのですが、何度か打ち合わせをして、思い切って飛び込んでみようと決意しました。すでに撮影は終わりましたが、ブラックコメディかと思いきや、サスペンス寄りのシリアスな人間ドラマでしたね。しかし、そこにいたるまでのブランクが想像以上に大変でした。連続ドラマを4年間やってなかったので本当に緊張しましましたし、不安に襲われました。いままでこんなにせりふを繰り返したことないなと思うくらい、クランクイン前は1日中せりふを言っていましたし。それで撮影現場に行ったときの居方(いかた)というか、どういうふうにいたんだっけとわからなくなってしまった。僕は13年くらい演技一本でやってきて、それなりに自信を持って胸を張ってやってきたつもりだったんですけど、それが4年間あいたことによって、こんなにもすきま風が吹いて、体がやけに軽い。自信がなくなっていました。そんな違和感をおぼえ、戸惑いました。思い起こせば、俳優をはじめたころはそんな落ち着かない感じだったかもしれません。 今回は、挑戦という意味では、すごくチャンス。作品もすごく挑戦的な作品です。いまの自分ができる部分があるように思いました。 ――今後はどんな役をやってみたいですか? 小出恵介さん:自分の人生を重ねると、間違いもたくさんありましたし、挫折も経験しました。もしそれをいかせるとするならば、ちょっとクセのある役やダメな人間を役柄で演じてみたいというのはありますね。もとも人間の負の部分、それを奥行きとして感じるところがありますし、人間は理不尽で、きれい事だけでは語れないと思いますから、そういうのを含めて演技の幅を広げていければいいなと思います。とはいえ、まずはお仕事をもらえないことにはお話になりません。いただいた仕事に全身全霊で取り組むのが大前提ですが、もしもほかの俳優さんが避けたがるような役とか、避けたがるような内容のドラマがあるんだとしたら、貪欲に、それは僕が挑戦したいなと思います。 ――自分自身と向き合って4年間を見つめ直した結果、たどり着いた答えはありますか。 小出恵介さん:4年間…、役者として大事な30代ですし、やはり長いですよね。この期間というのは何か試されたような気がしています。試されるというのは、どれだけ自分が本当にその仕事をやりたいか、どれだけ自分がその仕事に向いているか、ということ。 俳優の仕事というのは自分がやりたくてもできません。誰かから声をかけていただいて初めて、俳優として求められているということになる。どれだけ自分はがんばっていると言っても、仕事にはつながりません。自分が俳優として求められるかどうかが、本当に試されたような気がします。それは演技の力量とかだけじゃなくて、人間的な部分がものすごく大きいということがあらためてわかりました。あなたを業界として必要とするかどうかという一番大きな命題。それまでは自分が特別になりたいとか、すごく才能のある演技をしたいとかそういうことを意識しがちでした。俳優は感性や演技スキルを磨くとか、そういうことにいきがちです。もちろんそれも大事かもしれないけれども、プロフェッショナルな集合体のひとりであること、それがより大事なことだとひしひしと感じました。さんまさんやたくさんの方がこんな僕を励まして助けてくれる。一緒によろこんだり悲しんだりしてくれる。そんなあたたかい人たちに触れてやはり人間性なんだと思いましたし、僕もそんな理想に近づけるように努力しようと心に誓いました。