0.03秒差の明暗…“史上最高レベル”日本選手権でハードル女王・福部真子(28歳)と2位・田中佑美(25歳)が語った「ライバルたちとの絆」
自己ベストも参加標準に届かず…落胆の田中
悔やまれるのは準決勝のレースだ。12秒85の自己ベストだったものの、パリ五輪の参加標準記録には届かなかった。 「たぶん普段の試合だったら『思ったより出ました』って言っていたと思うんですけど、正直、もうちょっと出て欲しかった。今回は自分に軸があるんじゃなくて、参加標準記録に軸があるので」 タラレバは禁句だが、福部が走った準決勝第1組が追い風だったのに対し、田中らの第2組は微風ながら向かい風だった。 決勝は、勝利と標準記録突破を目指して「スタートから3台目までしっかり加速するために、1台目で絶対怯まないっていう気持ちでスタートを切りました」と攻めたレースを試した。「全体で2、3台バランスを大きく崩した」と修正すべき点が多々あったが、雨天の悪条件でもセカンドベストで走った。それでも福部にも、標準記録にも届かなかった。 7月1日の時点ではまだ出場圏内の40位につけているが、日本選手権と同日には世界各地で大会があり、7月2日に世界陸連からオリンピック出場資格者が公表されるまでは予断を許さない。 「私はまだ25歳で、これからも競技を続けます。(パリ後の)オリンピックも来ますし、オリンピックが陸上の全てではない。もっともっと強くなれるように頑張ります」 田中はレース後にこう話していたが、できれば、今夏パリでトラックを駆ける田中の姿が見たい。
「12秒台の世界」の先駆者となった寺田
そして、2位に終わり肩を落とす田中に真っ先に駆け寄ったのが、3位の寺田だった。 田中が気を落とさないように励ましていたのだろう。優しく抱きしめると、その後も田中の手をとって寄り添っていた。 そして、田中と共に福部のもとに歩み寄ると、勝者を讃えていた。いつの間にか、寺田の目にも涙が浮かんでいた。 「今回の日本選手権が最後になるかもしれない」 34歳の寺田にも万感の思いがあった。 2021年の東京五輪は準決勝進出の快挙を果たしたが、今季は足首を痛め5月のセイコーGGPも欠場していた。ワールドランキングでもパリ五輪の出場圏外に押し出され、今回の日本選手権に最後の望みを託していた。 「やれることはやったので、それが涙に現れたのかなと思います」 五輪を逃した悔しさはもちろんあるが、寺田もまた予選、準決勝、決勝と12秒台を3本そろえ、力を示した。 女子100mハードルは、今でこそ6人もの現役選手が12秒台をマークしているが、この活況の状況を作った立役者は間違いなく寺田だ。 かつて13秒に大きな壁があったが、一度は陸上界を退いた寺田が復帰し、2019年に日本人で初めて12秒台をマークすると、青木や福部、田中が続き、今や12秒台が当たり前となった。 “最後かもしれない”日本選手権でハイパフォーマンスを見せた寺田には、先駆者としての矜持を見た気がした。 「寺田さん、田中さんや、青木さんがいるおかげで、私も“まだ食らいついていきたい、もっともっと記録を伸ばしたい”というふうに踏ん張れる。もちろんレースの時は、ライバルがいるのはすごく緊張するし嫌だなと思うが、そういうライバルの存在がいないと自分自身成長できない。そういう存在がいることは、すごくありがたいことだなと思う」 今回、青木は欠場したが、パリ五輪を決めた福部はレース後にこう話していた。 第三者の勝手な決めつけかもしれないが、ライバルの思いも背負って、福部はパリに乗り込むにちがいない。
(「オリンピックPRESS」和田悟志 = 文)
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